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【識者の眼】「産婦人科医が考える『生理の体験』の注意点」柴田綾子

柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科医長)

登録日: 2024-12-12

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月経随伴症状(生理痛など)や更年期障害など女性特有の病気の社会的関心が高まり、ニュースやSNSで話題になることが増えてきた。経済産業省からは1年間の日本の経済的損失は月経随伴症状で約0.6兆円、更年期障害で約1.9兆円と推計が発表され、女性個人から社会全体の課題へと認識が変わりつつある。

一方で、月経随伴症状や更年期障害にはまだまだ誤解も多い。組織におけるジェンダー・ダイバーシティ講習会や性教育において月経随伴症状や更年期障害を取り上げる場合、以下のような点に注意が必要である。

1. 月経随伴症状や更年期障害の症状は個人差が大きい
2. 個人が感じる痛みや症状を他人や何かと比較することは難しい
3. 周囲の環境からの負荷、ストレスなどで症状が悪化することがある
4. 症状や病気はプライベートなことであり、周囲に知られたくない人もいる

女性特有の病気について学ぶ機会が増えてきたことは素晴らしいことだが、女性がイライラしているときに「生理前だからでは?」や「更年期障害では?」と他人が勝手に決めつけたりすることは好ましくない。また、これらの症状の多くは産婦人科での治療で緩和できることが多いが、治療には副作用のリスクや経済的な負担があり、無理やり治療や受診を押しつけることも好ましくない。

病気全般に言えることだが、○○の病気(症状)を体験するシミュレーターやVRなど、その症状だけを体験したとしても「その症状を抱えて毎日生きていく辛さ」のすべてを体験できたわけではないし、自分にとっては軽い症状や痛みであっても、その病気を抱えている人を軽んじたり、「大したことはない」と見下してよいわけではないことに注意が必要である。

医療人類学のアーサー・クラインマンは「疾患(disease)」と「病い(illness)」は別であると説いた。私たちは、教科書や記事によって「疾患(病気の一般的な症状)」を学ぶことはできるが、他人が抱えている「病い(病気や症状をもって生きていく大変さ)」を完全に理解したり評価することはできないことに注意したい。

柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科医長)[女性特有の病気][社会全体の課題]

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