子どもの交通事故はいまだに深刻な社会問題である。特に横断歩道での歩行中に発生するケースが目立つ。交通事故総合分析センターの統計によると、交通事故による15歳未満の死傷者数は減少傾向にあるものの、小学校低学年の歩行中の事故が依然多いことがわかっている。特に7歳が事故発生のピークで、「魔の7歳」とも呼ばれている。
子どもの事故リスクがこの年齢で高い理由は、発達段階と社会的背景の双方に起因する。一般的に4〜6歳で危険に対する理解が育ち始めるが、判断能力は不安定である。6歳を過ぎるとより自立するようになり、危険なこともできるようになる。しかしまだ、音や距離、車の速度を正確に判断する能力は未熟である。この時期に小学校に入学するため、親と離れて子どもだけで通学を始めることが、事故増加の大きな要因である。
もちろん個人差はあるが、一般的に横断歩道を安全に渡れる目安の年齢は10歳とされている1)。この年齢では交通に関する知識や認知能力が発達し、適切な判断が可能となるためである。しかし、それ以下の年齢でも適切な教育を行えば、安全な横断行動を身につけることができることが研究から示されている2)。たとえば、信号が点滅したら次の青信号を待つことや、遠回りしてでも横断歩道を渡ることを日常的に親子で実践することで、交通ルールを習慣として身につけることができる。
大人の横断行動が子どもに与える影響は無視できない。子どもは大人の行動を観察し、それを模倣する傾向がある。特に小学校低学年は「自分も大人と同じことができることを証明したい」年齢とされている。したがって、横断歩道で赤信号を無視する大人の行動は、子どもに誤った認識を与える可能性がある。大人が横断歩道のルールを守ることは、子どもを間接的に教育することにつながっている。
最近は地域社会による登下校中の見守り活動も行われており、これが交通事故防止に寄与する可能性がある。日本国内で直接検証したデータはないが、海外の研究では、道路横断監視員がいることで子ども自身の安全性の認識が高まったことが示されている3)。さらに、見守り活動は児童の犯罪被害のリスクを下げる可能性もある。これらの犯罪発生の特徴の1つが登下校中の被害であるためであり、実際に犯罪率が低下したとの報告もあることから、社会全体での取り組みが求められる。しかし、高齢化により見守り活動の担い手不足が課題であり、地方ではスクールバスの導入を検討する動きもみられる。
学校保健安全法第27条では、学校は「学校生活その他の日常生活における安全に関する指導」を行う役割があると規定している。しかし、登下校中のトラブルに学校が直接的な責任を負うという文言はなく、その安全は家庭や地域が主体となって守る必要がある。人口減少や高齢化が進む中、子どもの安全確保を学校任せにするのではなく、社会全体の課題として共有することが重要と言える。
【文献】
1)Schieber RA, et al:Inj Prev. 2002;8:i1-10.
2)Barton BK, et al:J Pediatr Psychol. 2007;32(4):475-80.
3)Amiour Y, et al:Int J Environ Res Public Health. 2022;19(5):2641.
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[子どもの交通事故][魔の7歳][登下校]