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【識者の眼】「ナオミさんの自由」目崎高広

目崎高広 (榊原白鳳病院脳神経内科)

登録日: 2025-01-14

最終更新日: 2025-01-14

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前稿(No.5255)で私は、「医師の見識が地に堕ちている」という趣旨の文章を書きました。しかし誤解しないで下さい。それは決して、「医師は自らの人生を投げ打って医療に邁進すべし」とか「医師は修行僧のごとく清廉潔白であれ」とかいう、精神論をぶつつもりではありません。

最近も「医師は労働者か否か」などという幼稚きわまりない議論があったと記憶しますが、医師は労働者です。働いて収入を得て納税している以上、そして労働者を超える恩典を何一つ得ていない以上、医師は労働者に決まっています。聖職だと信じる方々はどうぞお好きに。いや、悲しむご家族がある方は、不本意でも過労死へとひた走らず、労働者であるべきです。

そして医師も一市民である以上、他職種と同様、あらゆる自由とともに幸福追求の権利も持っています、何一つ欠くことなく(ただし高い見識が必要です。それを前稿に書きました)。本稿で書くのは、いま話題になっている「直美(ちょくび)」のことです。

「直美」とは初期研修を終えたあとに他科研修を経ず、直接美容外科に進むことを言うそうです。そんな若い医師が増えていることの賛否があちこちで議論されていますね。

そんなの、いいに決まっているじゃないですか。職業選択の自由。これを規制したい動きがあるようですが、憲法違反の可能性が濃厚だと私は思います。免許と技能を活かして高収入を得ることができるのですから、若い医師にとって魅力的なのは当たり前。ではなぜ問題になっているのでしょう。

最大の理由は、一般的な医療に従事する若い医師が減ることへの懸念でしょう。でもそれは医学界も行政も、自業自得ではないですか。低収入の下働きから初めて長い修行、試験、上下関係、学術業績へのプレッシャー、そして何よりも長年の医療費抑制制度。一般的な医師の未来が、今よりも明るくなる希望がどこにありますか? 構造不況業種の最たるものではないですか。こんなところに留まる人々の気がしれない、と考えるのが常識的な判断です。だから「直美」を責めるより、まず一般医療の居心地を改善しなければ話にならない。そこを放置して非難しても、冷笑で返されるのがオチです。

もう1つは私が経験したことです。私の専門はボツリヌス毒素療法ですから、美容にも関連します。美容関係の学会から招ばれて講演したこともありますが、いやもう、昔のことですが、びっくりしました。一言で書きましょう。学問とは言い難い世界でした。

「直美」上等です。ただし医学である以上、学問として自立しなければなりません。ですから若い医師の方々は、こんな蔑みの表現に甘んじることなく、1つの診療科として立派に自立した学問を育て上げて下さい。そして「直美」を非難する方々、どうしてもその流れをくいとめたいなら、足を引っ張るのではなく、自らの魅力(診療報酬も)を高める努力をして下さい。それでこそ互いに補い合えると思います。

目崎高広(榊原白鳳病院脳神経内科)[ちょくび][美容外科][構造不況業種]

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