免疫細胞、数理モデル、シミュレーションが専門のYasuda博士(理学)の「疑似相関」ではなく、「疑似因果」という言葉を提唱するコラム(を興味深く読んだ。疫学者が因果関係を検討するとき、どのように考えるのかを説明しつつ、この話題についての考えを述べたい。なお、術語に関して、領域ごとに若干ニュアンスや、考え方そのものが違うことはありうるので、疫学者の考えであることを断っておく。
疫学者は、因果関係(causality)を考える2つの事象(要因とアウトカム)の間の関係性について、まず真の関連があるか、そして、その真の関連が因果関係かという2段階で検討する。なお、この提唱で(あるいは世間で)「相関(correlation)」と呼ばれているものは、関連のうち直線性があるものについて使うことが多く、関連に含まれる概念なので、ここでは、関連(association、relationship)という用語を使用する。
2つの事象の関係性⇒①⇒真の関連⇒②⇒因果関係、という2段階の①の過程は、関係性が、偶然誤差や系統誤差のせいではないということを確認する手続きで、分析疫学の最重要事項である。偶然誤差(chance)は例数が少ないことによる結果のぶれによるものであるが、p値が5%未満であれば偶然とはみなさないなどの取り決めで動いているため、話としては単純だ。問題なのは系統誤差(広義のbias)による関連の歪みで、デザインや解析によって系統誤差を排除した結果、残ったのが真の関連ということになっている。この流れは、「chance,bias,or the truth」と表現される。系統誤差による関連を、私個人は「偽の関連」と呼んでいる。「疑似」ではない「偽」としたほうが明確だ。
真の関連を因果関係と判断するかどうかは、より高次の議論であり、分析疫学研究は「真の関連」の提示にとどまっていることも多い。たとえば、コホート研究で、運動習慣のある人は「死亡が少ない」というものと「乳癌罹患が少ない」という真の関連のどちらが因果関係として納得しやすいかというのは、データや統計学だけの問題ではない。因果関係への言及は、もっと総合的な判断によるものだ。
私たち疫学者が、偽の関連と言ったとき、それは①が否定されているため、因果関係ではありえないという共通理解がある。また私たちが「関連」と言えば、通常「真の関連」のことを指し、バイアスによる偽の関連は含まれない。この2点の共通理解が議論のためには本来必要だ。
「真の関連」と「偽の関連」を合わせるとすべてを包括するように、「偽の因果」を「(真の)因果」と合わせるとすべてを包括するという定義であれば、この提唱は理解しやすい。ただし、「相関関係は因果関係ではない」という文脈で語られている関連の多くは、「バイアスや交絡の影響を受けた偽の関連である(真の関連ではない)」という認識は重要と思われる。
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[疑似相関][疑似因果]