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【識者の眼】「日本が学ぶべき『クラスターアプローチ』と災害対応の国際基準」稲葉基高

稲葉基高 (ピースウィンズ・ジャパン空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”プロジェクトリーダー)

登録日: 2025-03-05

最終更新日: 2025-03-04

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前稿(No.5261)では、災害時に地方自治体が抱える負担の大きさについてお話ししました。被災地では、自治体職員も被災者でありながら、多くの業務をこなさなければなりません。その負担を軽減し、よりスムーズな支援を実現するためには、自治体だけでなく、支援団体や企業などが役割を分担し、連携する仕組みが重要です。

クラスターアプローチとは?

こうした問題を解決する方法の1つが、海外で活用されている「クラスターアプローチ」です。これは、「支援を分野ごとに整理し、それぞれの専門機関が中心となって対応する仕組み」のことです。たとえば、食料支援なら国連の世界食糧計画(WFP)、医療支援なら世界保健機関(WHO)が主導し、各団体が協力して支援を届けます。こうすることで、支援の重複や抜け漏れを防ぎ、効率的に被災者へ支援を届けることができます。

クラスターアプローチの実践例

私自身、2013年の台風ハイエンの支援(フィリピン)に参加した際、政府機関(GO)とNGOがヘルスクラスター(医療分野)で連携し、それぞれの強みを活かして支援を行う姿を目の当たりにしました。日本でも、近年の災害対応において「保健医療福祉調整本部」が設置されるようになり、これはまさにヘルスクラスターと同じ仕組みです。しかし、医療分野以外では、こうした枠組みが十分に確立されていません。

たとえば、避難所運営では、自治体やボランティア、NPOなどがそれぞれ活動していますが、「誰が何を担当するのか」があいまいなことが多く、十分な支援が行き届かないケースもあります。加えて、能登半島地震の際に水や炊き出しを自衛隊に頼らざるをえなかった状況も、水・衛生(wash)や食料(food)といった分野にクラスターがあれば、民間の力を活用して改善できた可能性があります。

日本の災害対応は高いレベルにあると考えていますが、支援の調整を強化し、「誰が何をするのか」を明確にすることで、より多くの人に適切な支援を届けることができるはずです。今後、クラスターアプローチの導入を検討し、医療以外の分野でも実践できる仕組みを構築することが求められます。

稲葉基高(ピースウィンズ・ジャパン空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”プロジェクトリーダー)[災害対応][クラスターアプローチ

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