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【識者の眼】「APSC Emerging Leaders Scholarshipで学んだリーダーシップの要点」鍵山暢之

鍵山暢之 (順天堂大学循環器内科/データサイエンスコース特任准教授)

登録日: 2025-03-10

最終更新日: 2025-03-07

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2025年2月20〜21日の2日間、カンボジアのプノンペンで開催されたAsian Pacific Society of Cardiology(APSC)とFondazione Menariniが主催する「Bijoy Khandheria Emerging Leaders Scholarship」に参加してきました。私自身、循環器領域の学会や研修にはこれまで数多く携わってきましたが、このプログラムではリーダーシップを中心に据えた内容が充実しており、大変刺激を受けました。

プログラムは大きくわけて、講演と小グループでの討議の2本柱で構成されていました。初日のセッションでは、「APSC Emerging Leaders Introduction」などといった講演が行われ、学会や研究組織がいかに若いリーダーを支援し、人材を育てていくかという視点が共有されました。さらに「Career Longevity and Diversity」のセクションでは、参加者同士が自身のキャリアに対する考え方を話し合う機会があり、異なる文化圏や医療環境の中で働く方々がどのようなキャリア観を持っているのか学ぶことができました。また、グループ討議では「Trust,Communication,and Teamwork」「Positive Intelligence」など、いずれもリーダーシップに不可欠なテーマについて、実践的に議論し合う場が用意され、参加者同士が積極的に意見交換を行ったことが印象的です。

2日目のセッションでは、プレゼンテーションの重要性やタイムマネジメント、「Why Mentorship Matters(なぜメンターシップが大切か)」など、リーダーとして必要とされるスキルの多面性がいっそう強調されました。特に「Emotional Intelligence(EQ)」や「Positive Intelligence」などの概念は、メンバーの意欲を引き出し、組織のモチベーションを高める上で重要であり、従来の医療研修や学会活動では十分に扱われてこなかった分野と言えます。こうした分野を体系的に学べるプログラムがあることで、参加者は自らのリーダーシップ像を再確認し、さらに深める機会を得ることができました。

今回参加して強く感じたのは、医療従事者は日々の臨床や研究の知識・技術を学ぶだけでなく、いずれはチームを率い、組織を動かすリーダーシップが必要となる時期がくるということです。病院の管理職や開業医として組織をまとめる際には、専門的な診療能力以上にビジョンの提示や人心の統合、メンバーへの動機づけといったリーダーシップの要素が不可欠です。リーダーシップは「特別な才能」だけで決まるものではなく、コミュニケーションスキルやコーチング手法など体系的に学び、実践の中で磨いていくことが可能だと改めて感じました。

しかし、今の日本の医療現場には、リーダーシップ教育プログラムを包括的に学べる仕組みが十分に整っていないように思われます。多忙な臨床現場の中で、リーダーシップをじっくり学ぶ機会が限られてしまうことも事実です。我々は、医師や医療従事者としての立場で医学の専門性を高めていく教育を数十年にわたって続けていく一方で、リーダーシップに関する教育を受けることなく、突然リーダーシップが必要となるポジションになってしまいます。このような中で、若手や中堅の医師が、マネジメントスキルやリーダーシップを体系的に学べる場を設ける必要があるのではないでしょうか。

各々のビジョンを明確にし、他者を巻き込み、イノベーションを創出する─そうした力は、今後さらに多様化していく医療現場を支える上で、欠かせないものであることを再確認する2日間でした。リーダーシップやマネジメントを学問化し、体系的に学ぶことが医療界にも必要ではないでしょうか。読者の皆様と今後も考えることができたらと思います。

鍵山暢之(順天堂大学循環器内科/データサイエンスコース特任准教授)[医療現場][リーダーシップ育成国際交流

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