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【識者の眼】「クレーム対応への処方箋」浅川敬太

浅川敬太 (梅田総合法律事務所弁護士、医師)

登録日: 2025-03-17

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近時、カスタマー・ハラスメント(カスハラ)という言葉を耳にする機会が多くなりました。お客さんから理不尽な要求を受けて困っている店員さん等を見聞きすると、無性に悲しくなります。腹立たしく感じることも少なくありません。

厚生労働省の定義によれば、カスハラとは「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」を言うようです。医療機関においては「顧客」を「患者さん」に置き換え、ペイシェント・ハラスメント(ペイハラ)と呼びます。

ペイハラは何も最近になってでてきたものではありません。以前より医療機関ではペイハラが多いとされ、患者さんの医療機関に対する過度の期待、あるいは、医療機関側の(病める者である)患者さんへ寄り添うスタンスなどが、ペイハラが生じやすい背景になっているとの分析もあります。

さて、あくまでも私見ですが、クレーム対応で最も大切なのは、患者さんからの申し入れが、いわゆる「苦情」であるのか、それとも「正当な要求」であるのか、はたまた「不当な要求」であるのかを的確に峻別して判断することにあります。

正当な要求であればきちんと対応しないといけません。こちら側のサービスの改善にも繋がります。耳に痛いこと(苦情)も受け止める姿勢がひとまずは健全でしょう。もっとも、「不当な要求」には毅然として対応しなければなりません。ともに働く仲間が消耗し、その家族までも不幸になることは最優先で避けなければなりません。

この峻別を行うに当たって肝心なのが「初動」です。患者さんの申し入れの内容を、まず丁寧に聞き切ること。「聞く」のではなく「聞き切る」ことがポイントです。「医療機関に具体的に何を求めるか」と「なぜそのように考えたか」を事実ベースで確認できれば十分です。そこをおろそかにすると対応に失敗することが多くなるように感じています。

初動の数十分を惜しむと、後になって何倍にもなって返ってくる……。

私が若手のときに指導医に言われたこと、そして、今指導医になって若手の先生に言っていることがそのままあてはまっていて、興味深く感じます。

自分が貰った言葉や発した言葉が、時や立場・業種を変えて眼前に現れ、そのたびに感じるものが違うのは、私が少しでも成長したからなのでしょうか。そのあたりは不明ですが、少なくともそのような言葉に出会ったこと自体は幸せなことなのでしょう。

かつての指導医の先生方に感謝しなければならないことが、またひとつ増えたようです。

浅川敬太(梅田総合法律事務所弁護士、医師)[クレーム対応][ハラスメント][初動

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