▼2012年の衆院選における公職選挙法違反、それに伴う徳田毅氏の議員辞職、理事長の親族とグループ役員の逮捕・起訴、猪瀬直樹元東京都知事への選挙資金供与─。日本有数の巨大医療法人グループ・徳洲会とカネを巡る一連の事件は、政界のみならず医療界にも大きな衝撃を与えた。特に、理事長の長女がグループの関連営利企業の代表に就き、グループ内の法人間のカネの流れを一族で独占的に掌握していた点については、昨年の国会で非営利性に抵触するとして問題視され、批判の矛先は医療法人制度そのものに向けられた。
▼徳洲会事件以降、医療法人経営の透明性を巡る議論は活発化している。政府の規制改革会議のワーキンググループは、2月中旬に行った論点整理の中で、医療法人に対し取引関係のある企業との関係性を会計上明らかにすることなどを求めた。厚生労働省の検討会も事業展開を行う上では透明性強化が不可欠として、外部監査の導入や理事長権限の範囲の変更に向けた議論に乗り出している。
▼こうした中、2月末、四病院団体協議会の小委員会が医療法人制度史上初となる統一的な会計基準を策定した。これまで医療法人の会計には、病院向けの「病院会計準則」を除けば、明確な基準が存在しなかった。そのため医療法人は会計基準さえ持たない「未成熟な法人」との批判がしばしばなされてきた。会計処理では中小企業などの基準が準用されてきたが、近年になって企業会計は投資情報を重視した形に変わってきており、非営利性を原則とする医療法人に適用する場合、運用上の齟齬が生じていた。今回策定された会計基準は、そうした制度上の矛盾の解消を狙ったものだ。
▼会計基準の策定に当たった公認会計士の五十嵐邦彦氏は、今月4日、都内で開かれた講演会で「会計基準ができたことで透明性が皆無だという批判はもうされなくなる。これからは胸を張ってほしい」と強調。厚労省も通知発出やホームページ掲載を通じ、基準の周知徹底を図っている。
▼会計基準ができたことで医療法人は、少なくとも制度上は他の非営利法人と同じラインに立った。現場での適用が進めば、医療法人全体の透明性強化に資することになり、株式会社と同等の外部監査体制の導入の検討も不要になる。徳洲会事件と会計基準の策定を経て、医療法人経営の透明性を巡る議論は大きな転機を迎えている。