▼精神疾患で入院している全国の患者約32万人のうち、約7割にあたる20万人が1年以上の長期入院であることが長く問題とされてきた。そのため厚労省は、入院の必要性が低い長期入院患者の地域移行策を議論する検討会を3月に設置し、今月1日、報告書が取りまとめられた。焦点となっていた精神科病棟の居住施設への転換は、対象を現在の入院患者に限定し、自治体と連携して試行的に実施することになった。
▼居住施設への転換は、患者が地域移行した結果、不要となった建物設備を、退院意欲が固まらない患者の段階的な地域移行や地域生活支援のために活用することが目的とされている。ただ、「国連の障害者権利条約第19条(自立した生活および地域社会で受入れられる権利)に反する」「一生を病院敷地内で過ごすことになりかねない」など、病院の囲い込みへの懸念・批判が根強く、検討会の議論は転換の是非に多くの時間が割かれることになった。その影響で、肝心の地域移行策の議論が十分に行われなかったことは否めない。
▼報告書は冒頭、「精神障害者の地域移行は、2004年の『精神保健医療福祉の改革ビジョン』に基づき様々な施策を行ったが、依然課題が多い」と記述しているが、その原因分析は行っていない。厚労省が策定した改革ビジョンは、約7万人を10年後までに退院させることを目標に、国民の意識改革や、病床の機能分化・地域生活支援体制を推進するとした。しかし、10年後の今年、検討会委員から「全く変化がなかった」との声が相次ぐ結果となった。
▼報告書は、地域生活の支援策として、グループホームや特別養護老人ホーム、一般住宅などを居住の場に活用することを促進するとしているが、具体的な誘導策には踏み込んでいない。患者や家族を地域で支える医療・福祉サービスについても、実効性のある施策を提言するまでには至らなかった。
▼居住転換の方向性が示されても、あくまでも原則は、地域生活への直接移行だ。そのために、どのような施策、サービスが必要なのか。行政や医療、福祉関係者の連携はいかにあるべきなのか。「変化のない10年」を繰り返さないためには、患者が地域で生活するための体制整備に焦点を絞った検討を集中的に行う必要があるのではないか。患者の地域移行はすべての委員が賛同しており、建設的な議論を進める土壌はできている。