▼米国の「Choosing Wisely」を取り上げた書籍が最近相次いで上梓された。「Choosing Wisely」は適切な医療のために対話を促すことを目的に米国内科専門医認定機構財団が2011年から行っている活動で、各学会が「Things Physicians and Patients Should Question(医師と患者が話し合うべき項目)」を公表するもの。例えば米国家庭医学会は「非特異的な急性の腰痛患者に対し画像検査を行うべきではない」など15項目を掲げる。2014年7月現在、71学会がリストを公表している。
▼「Choosing Wisely」をテーマにした書籍の1冊が、医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が著した『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BPマーケティング)だ。「Choosing Wisely」で指摘された項目を「受けたくない無駄な医療」と見なし、患者の負担や国の医療費増加につながると問題視する。
▼もう1冊の『Choosing Wisely in Japan―Less is More―』(尾島医学教育研究所)は、徳田安春氏が設立した「ジェネラリスト教育コンソーシアム」が昨年、過剰医療をテーマに開催したシンポジウムの内容を収録。日本の状況を踏まえた「医師と患者が話し合うべき項目」を領域別に提案する。
▼「Choosing Wisely」の背景には民間医療保険が中心の米国特有の医療保険制度があることは言うまでもない。しかし、こうした動きに日本も無縁ではいられない。最近では日本人間ドック学会の基準値が社会的に大きな反響を呼ぶなど、「この医療行為は本当に必要か」と患者が考える風潮は高まっている。医療費の目標値設定につながりかねない動きもある。財政審が5月にまとめた報告書は都道府県ごとに医療費目標を設定するよう提言、7月に政府の社会保障制度改革推進本部に設けられた専門調査会では医療・介護情報について、「都道府県ごとの医療費水準」の点から議論されることとなっている。
▼室井氏が「医療側が先手を打つのが一番いいのではないだろうか」と著書で指摘する通り、医療界はプロフェッショナルとして安易な医療行為を見直す動きをさらに活発化すべきだ。一方、「無駄な医療」が減らない大きな理由には、お客様意識の蔓延や死生観の変化などにより、医療に完全を求める社会の姿勢がある。どこまでが無駄な医療なのか、どこまで完全さを求めるのか、そのバランスについて議論が不可欠だ。患者に無用な負担を与える医療をなくそうという点では誰もが一致しているのだから。