▼冒頭から私事で恐縮だが、昨年10月に筆者の祖母が95歳で他界した。祖母は1941年に東京女子医専を卒業後、家庭に入ったが、祖父が戦地で数年消息不明だったことから、2人の子供を養うために開業した。85歳まで現役を続け、葬儀では菩提寺の住職から「地域医療に一生を捧げられた」とのお言葉を頂戴した。引退後は“曾孫の主治医”。女医としての人生を全うした95年だったのではないだろうか。
▼日本の女性医師の割合は1980年の10.0%から2012年には19.7%となり、医学部生は女性が3分の1を占める時代になった。生産年齢人口が急速に減少する日本では、医師に限らず女性が子育てと仕事を両立できる環境が不可欠だ。政府は成長戦略の柱に女性支援を掲げ、次期通常国会で大企業や国、自治体に女性登用の独自の数値目標設定と公表を義務づける「女性活躍推進法」の成立を目指している。
▼こうした流れを受け設置された「女性医師のさらなる活躍を応援する懇談会」の報告書が昨年末にまとまった。管理者や上司に対し女性医師の働きやすい職場の雰囲気づくりを求めていることに加え、支援を受ける女性医師の側にも周囲が支援しやすい工夫が重要と明記している。議論の中で課題と指摘されたのが、子育てとキャリア形成の両立が困難な現状だ。報告書はライフステージに応じた様々なキャリアを前向きに捉える価値観の醸成が重要としているが、それを強制するのは難しい。
▼東京女子医大は昨年12月、女性教授の割合を20年までに30%にまで引き上げる目標を打ち出した。医療事故の再発防止策の副産物であり、女子医大という特殊性もあるが、教員や管理職に女性登用枠の目標値を掲げる動きが他の医学部や大病院にも広がれば、子育てがキャリアを中断するとの認識を変えることに繋がる取り組みになりはしないか。
▼「短時間勤務」「当直の免除」など柔軟な勤務体制の確保も重要だ。一方で女性医師の増加による“負担の偏在”も指摘されるなど、勤務医の環境改善へのハードルは高い。祖母が50年以上も診療を継続できたのは開業医だったことが大きいが、現在開業するには多額の費用がかかり容易ではない。そこで、女性医師の開業支援を地域医療介護総合確保基金の対象としてはどうか。逆差別になるとの声もあろうが、妊娠・出産など固有の事情を抱える女性医師に適した環境がなければ、早晩医師の絶対数が不足する可能性は高い。医療界を挙げて知恵を絞りたい。