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海軍士官の言い訳(上) [エッセイ]

No.4803 (2016年05月14日発行) P.66

内藤裕史 (筑波大学名誉教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • 医療過誤で患者から訴えられたとき、理由が何であれ、申し開き、弁明、言い訳を一切せずに、ひたすら申し訳ありませんと頭を下げるのは、問題解決の最善の道でもなければ美徳でもない。しかし、かつては「口が裂けても言い訳はするな」と教えられ、それが生きる規範であった教育がある。

    言い訳に対して激怒した例─ある麻酔科学の教授1)

    岡山大学医学部に小坂二度見という教授がいた。麻酔・蘇生学教室の初代教授、病院長、医学部長、岡山大学学長を歴任、いくつかの学会の会長を務め、2003年に死去した。直情で強引な印象を与えるが、彼を語るとき18歳から19歳までの2年間に海軍兵学校で受けた教育を抜きにしては語れない。彼は兵学校の教えを肉とし骨とし、自己を律し、他を律し、世に挑戦し続けた。

    海軍兵学校では、「軍人は口が裂けても言い訳はするな」と耳にたこができるほど聞かされる。弁解は一切許されない。言い訳は潔しとしない、潔さを尊ぶのが男の美学だった時代であり、それは魂に関わる問題でもあった。

    1974年頃、新設の愛媛大学の助教授に内定していた新井達潤が、急な公務で日中岡山大学附属病院の医局を留守にしたことがある。夕方病院に帰ると、入り口で小坂に呼び止められた。日中探してもいなかった、それが決まりになっている医局の黒板にも行き先が書いてなかったというのである。留学から帰国して間もない新井は、「そのことは誰にも聞いていませんでした。医局長、〇〇先生、〇〇先生には言って出ましたが」と言うなり、小坂は爆発した。

    「アンタ、言い訳をするんですか!」

    丁度帰宅時間でまわりを何人かの職員が歩いていたが、彼らも凍り付く迫力で、怒髪天を衝かんばかりの勢いであった。新井ばかりではない、「アンタ、言い訳をするんですか!」の一言で多くの門下生が叱責された。

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