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超音波による乳癌検診

No.4741 (2015年03月07日発行) P.54

鈴木昭彦 (東北大学大学院医学系研究科乳癌画像診断学寄附講座准教授)

登録日: 2015-03-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

乳癌検診では若年層,特に40歳代で乳腺濃度が高いためにその感度が低いことが問題になっています。この点に関して超音波検診の導入が議論されていますが,わが国における超音波検診の取り組みの現況はいかがでしょうか。東北大学・鈴木昭彦先生のご教示をお願いします。
【質問者】
笠原善郎:福井県済生会病院外科部長

【A】

マンモグラフィ併用乳癌検診において,若年者,特に40歳代の感度を50歳以上の年代と比較すると十分な効果があがっていないのが現状です。その欠点を補う目的で,わが国では乳癌検診への超音波の併用が,任意型検診や一部の対策型検診で行われています。しかし,検診の利益である死亡率減少効果に対する超音波検査の意義に関して,科学的に証明できるエビデンスは世界中探しても存在しません。超音波のような新規モダリティの追加は,癌発見率の上昇は期待できますが,同時に要精検率の上昇や追加検査の増加,過剰診断の増加など,検診の不利益も増加させる恐れがあり,導入に当たっては,有効性を科学的に証明できる根拠と慎重な判断が不可欠です。
わが国では「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験」(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial:J-START)を立ち上げ,2007年から症例登録を開始し,2011年までに7万6196名の参加登録を得ています。この試験はわが国で初めて行われる大規模なランダム化比較試験で,世界で初めて乳癌検診における超音波検査の意義に関するエビデンスを創出できるものと期待されています。登録者は基本的にはランダムなくじ引きにより,従来通りのマンモグラフィ併用乳癌検診(非介入群)とマンモグラフィに超音波検査を追加する検診(介入群)とにふりわけられ,2年間隔で検診を受診して頂きます。
2013年3月までにすべての2回目検診を終了し,現在では2回目検診を受診しなかった登録者に対するアンケート調査も完了,検診結果の未把握率は3.5%程度ときわめて高い追跡率を達成しています。研究のプライマリ・エンドポイントは検診の癌発見率,感度,特異度と設定しており,介入群,非介入群の両群間で比較したデータを2014年度中に論文発表できるように集計作業中です。
なお,癌検診の有効性を評価する上で最も重要な指標は死亡率ですが,乳癌の自然史は長いため,検診による死亡率減少効果に関して有意な群間差を示すために,長期の観察研究が必要です。
J-STARTの結果如何では,将来の対策型検診に超音波検査が推奨される可能性もありますが,超音波検査はその精度が検査する個人の技量に大きく依存するため,精度管理の水準を維持するには人材育成がきわめて重要です。J-STARTで培った教育研修システムの発展,さらに多くの人材に超音波に関わって頂けるような社会資本への投資も,将来の成功の鍵になると思われます。

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