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多剤耐性緑膿菌感染症の治療戦略

No.4755 (2015年06月13日発行) P.58

荒岡秀樹 (虎の門病院臨床感染症科)

登録日: 2015-06-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

多剤耐性緑膿菌(multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)は,緑膿菌に対し強い抗菌活性が期待できるフルオロキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン,レボフロキサシンなど),カルバペネム系抗菌薬(イミペネム,メロペネムなど),および抗緑膿菌用アミノ配糖体系抗菌薬(アミカシン,トブラマイシンなど)の3系統の抗菌薬に耐性を獲得した株とされており,緑膿菌感染症の数%を占めるとされます。
一方で,臨床的に有効とされるコリスチンは,わが国では使用できない状況で,その治療は難渋することが予想されます。
MDRPを疑うべき患者背景を含め,治療戦略について,虎の門病院・荒岡秀樹先生のご教示をお願いします。
【質問者】
皿谷 健:杏林大学呼吸器内科講師

【A】

緑膿菌は,院内で発症する細菌感染症の原因菌として重要であり,緑膿菌感染症の多くは何らかの免疫不全を有している患者さんに生じます。免疫不全の中でも,特に好中球減少を有する場合は病勢の進行が速いため注意が必要です。
MDRPが培養された場合でも,「培養された菌」=「感染症の原因菌」とは限りません。定着と感染を鑑別することが容易ではないこともありますが,血液培養など本来無菌部位からの検出を除いて,定着の場合も少なくありません。緑膿菌は様々な耐性機構を重複して獲得することによって容易に耐性化していきますので,不要な抗菌薬の曝露(定着菌に対する治療)は避けたいところです。また,異物(各種カテーテルなど)が挿入されている患者さんにおいては,それを除去することも重要です。特に尿道カテーテルは,可能な限り抜去するようにします。
グラム陰性桿菌感染症の治療原則は,十分量のβラクタム薬の単独投与です。しかし近年,βラクタム薬を中心とした多剤に耐性を示すグラム陰性桿菌が増加しています。特にMDRPは単剤で有効な抗菌薬がほとんどありません。海外で治療薬として用いられる静注用コリスチンを個人輸入して投与した報告がありますが,一般的に確立された方法ではありません。そこで既存の抗菌薬を用いて,相乗効果を期待した薬剤併用療法が模索されています。
通常の抗菌薬併用効果を検討する検査は,時間と労力を要し,迅速な臨床応用が困難です。そこでブレイクポイント周辺の濃度の組み合わせのみで併用効果を簡便にスクリーニングできる「ブレイクポイント・チェッカーボード・プレート」(BC プレート)が考案されました。BCプレートは,臨床的に重要な8薬剤の抗菌薬併用効果を1枚のプレートで同時に検討することが可能で,迅速な臨床応用が期待できます。現在,栄研化学から「BCプレート‘栄研’」として市販されています。
日本で分離されるMDRPは,コリスチンを除くと,アズトレオナム,ピペラシリン,アミカシンを含んだ併用療法において効果がみられた株が多いとされています。その中でも,日本において高度耐性に関与することがしばしばあるとされている不活化酵素の一種であるメタロβラクタマーゼ産生株の場合は,モノバクタム系薬に感受性を残していることがあります。よって,アズトレオナムを治療の中心とし,これにアミカシンなどのアミノグリコシド系薬を加えた組み合わせが,最も併用効果を期待できることが多いという報告があります。
しかし,日本におけるMDRPの疫学的研究はまだ不十分であり,緑膿菌の耐性メカニズムは複雑であるため,併用効果が期待できる組み合わせは菌株ごとに異なると考えられます。分離されたそれぞれの菌株のin vitro薬剤併用効果について,BCプレートなどを用いて検討する必要があります。そして,MDRPに対する信頼できる治療薬がない現状では,コリスチンの速やかな保険適用が期待されます。

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