【Q】
変形性膝関節症(osteoarthritis:OA)は歩行時の疼痛に始まり,進行すると日常生活動作(activities of daily living:ADL)を著しく制約します。薬物療法に加えて物理療法や運動療法などのリハビリテーションが保存療法として行われますが,保存療法によって膝関節痛が軽減しない症例には人工膝関節置換術(total knee arthroplasty:TKA)が適応となります。生活機能を拡大していくための周術期リハビリテーションは,非常に重要であると思いますが,術後にも膝関節痛を訴える症例をときどき経験します。OAに対するリハビリテーションを展開していく上での膝関節痛の評価の重要性について,近畿大学・福田寛二先生のご教示をお願いします。
【質問者】
長谷公隆:関西医科大学附属枚方病院 リハビリテーション科診療教授
【A】
(1)人工膝関節置換術(TKA)の反省
OAに対するTKAは,荒廃した膝関節のためADL制限が著明にみられる患者さんに対する有効な救済手段です。手術手技やインプラントデザインの改良などにより,安定した長期成績が獲得されているため,欧米では手術件数が飛躍的に増加しました。
米国では,既にTKAを受けた患者さんが400万人と50歳以上の4.2%に達し,そのコストがGDPの0.07%を占めるに至りました。TKAの医療経済的効果は既に証明されていますが,ベビーブーマー世代を対象とするTKAは将来的な再置換術が増加することを危惧させます。一方,術後に膝関節痛を訴える症例が存在することも最近の問題点の1つです。
(2)変形性膝関節症(OA)における疼痛
TKA後に膝関節痛を訴える集団にはX線変化が軽い症例が多く含まれていました。疼痛閾値を検討したところ,X線変化が軽いにもかかわらず疼痛の訴えの強い症例では,疼痛閾値が低下していることが確認されました。したがって,このような症例にTKAを行っても症状の改善は望めません。
膝関節の破壊が軽度であるのに,なぜ強い疼痛を訴えるのでしょうか。従来,OAは関節軟骨の摩耗や滑膜炎などにより疼痛が発生すると考えられていました(侵害性疼痛)。このような症例にはTKAはきわめて有用と思われます。一方,疼痛伝達経路の異常によって起こる疼痛を神経障害性疼痛と呼びます。脳卒中に合併する視床痛などがその代表例です。術後に関節痛が残存する患者さんでは,この神経障害性疼痛の関与が大きく,その背景に中枢性神経過敏の存在が示唆されています。
最近の欧米におけるTKAを受けた患者背景として,膝機能自体は以前の症例ほど悪くない反面,うつや不安感を訴える症例が増加しています。したがって,リハビリテーションを行う上では,膝関節痛を正しく評価した上で適切なプログラムを組む必要があります。
(3)OAに対するリハビリテーション
疼痛の評価には,以前から視覚的評価スケール(visual analog scale:VAS)や表情評価スケール(face rating scale:FRS)が用いられてきました。抑うつや不安など情動面での問題が大きいと思われる場合には各種心理検査が有用ですが,評価が煩雑で臨床現場には馴染みません。これに対し,PainDETECTは,侵害性疼痛と神経障害性疼痛を鑑別する上で有用なツールです。
最近の保存的治療に関するガイドラインでも運動療法の重要性が改めて強調されました(文献1)。具体的な運動療法の種目としては,エアロビクス,抵抗運動,体操の高い有効性が示されました(文献2)。疼痛を正しく評価し,適切な薬物療法を併用することで,より高いリハビリテーション効果が期待されます。
【文献】
1) McAlindon TE, et al:Osteoarthritis Cartilage. 2014;22(3):363-88.
2) Juhl C, et al:Arthritis Rheumatol. 2014;66(3): 622-36.