【Q】
認知症の患者さんは予備軍を含めますと現在約800万人と推測され,高齢社会に伴って患者数は増加することが言われています。また一方で,高速道路の逆走など,認知症患者による交通事故が問題になっています。下記について,隆記会田中医院・田中秀明先生のご教示をお願いします。
(1) 認知症患者の自動車の運転について法律が改正されましたが,どのような内容でしょうか。
(2) 交通事故のリスクが高い認知症の患者さん本人が,車の運転の継続を希望している場合,担当医師としてどう対応すればよいでしょうか。
(3) 公共のバスや電車など,交通網が発達していない地域では,自動車の運転ができなくなると買い物にも行けず,日常生活に支障が出ます。認知症の確実な診断が重要ですが,どのような検査法で認知症と診断すればよいでしょうか。
【質問者】
渡邉由佳 獨協医科大学神経内科准教授/獨協医科大学日光医療センター神経内科診療科長
【A】
[1]改正道路交通法は,平成25年6月14日公布,平成26年6月1日に一部施行されました。その改正内容は,(1)免許を受けようとする者が病状に関する公安委員会の質問に対し虚偽に回答した場合の罰則の規定,(2)認知症を診断した医師による任意の届出制度,(3)認知症の疑いのある者に対し,医師の診断まで3カ月の範囲で免許の効力の停止,の3点です。(2)の届出については,医師─患者関係などに支障をきたす恐れがあり,慎重な対応が求められることから,この点について,認知症に関係する5学会が合同で届出に関するガイドラインについて協議・策定しています。
[2]基本的には,事故を未然に防ぐためにできるだけ早く運転をやめさせる必要があります。その際には,まず運転の危険性を説明し理解してもらうよう努力します。了解が得られない場合は,運転免許試験場で臨時適性検査を受けることを勧めたり,家族の同乗時のみ運転を許可するなど,運転の機会を徐々に減らしていくようアドバイスします。それでもなお運転をやめない場合は,前述の届出を考慮します。届出の際には,少なくとも家族の同意を得ることが望ましいのですが,同意を得ずに届出を行っても,道路交通法第101条の6第3項の規定により,刑法の秘密漏示罪や個人情報保護法などには違反しないとされています。
[3]その地域に存在する医療資源にもよると思われ,どのレベルで確実な診断とするのか,判断が難しいと思います。基本は,介護者から普段の状況を細かく聞いて,認知機能の低下とそれに基づくADLの障害が確認できれば認知症と判断し,treatable dementiaの除外のために血液検査,脳波,MRI・CTなどの画像検査を行います。軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)や認知症疾患の病型診断の場合,可能な環境下であればSPECTを考慮します。
今後,社会の高齢化がさらに進み,認知症患者を社会として受け入れていく必要性があると考えられます。一方,政府は平成27年3月10日の閣議決定で,75歳以上の高齢者の免許所有者に対して,筆記式の検査で認知症の恐れがあると判定されたすべての人に医師の診断を義務づけ,発症していたら免許を停止か取り消しにする方針を発表しました。しかし,質問で述べられているように,認知症と診断され運転できなくなった高齢者の移動手段の確保など,公共交通の充実や日用品の宅配サービスの充実など,それに対応した地域づくりが重要と考えられます。