【Q】
最近,悪性黒色腫などに対する免疫療法が注目されています。同じく難治癌の1つである膵癌に対する免疫療法の最新の知見について,京都府立医科大学・石川 剛先生のご解説をお願いします。
【質問者】
桐島寿彦:京都市立病院消化器内科副部長
【A】
2014年,わが国において世界に先駆けて抗PD-1(programmed cell death 1)抗体薬が悪性黒色腫治療薬として承認され,これら免疫チェックポイント阻害薬の臨床的成功が注目されています。また,免疫チェックポイント阻害薬以外にも多数の免疫療法の開発が進行中で,良好な治療成績が近年報告されるようになってきています。膵癌領域においては現時点で第3相試験を経て承認された免疫療法は存在しませんが,ほかの癌種同様,膵癌においても様々な免疫療法の臨床開発が進められています(文献1,2)。
ワクチン療法については,CEA(carcinoembryonic antigen)やMUC-1, WT-1といった分子を標的としたpeptide vaccineと,膵癌細胞株を用いたwhole-cell vaccineの臨床試験が複数行われています(文献3)。それらのうち第3相試験の結果が報告されているものとして,ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(human telomerase reverse transcriptase:hTERT)蛋白を標的としたGV1001(文献4,5) と血管内皮増殖因子受容体2(vascular endothelial growth factor receptor 2:VEGFR2)蛋白を標的としたOTS102(文献6) の2種類のpeptide vaccineがあります。
これらの試験ではいずれも切除不能進行膵癌を対象とし,標準的化学療法(ゲムシタビンなど)に併用し,その上乗せ効果を検証する試験として行われましたが,いずれの試験においても試験薬投与による生存期間の延長効果は証明されませんでした。ただ,OTS102の試験においては,ワクチン接種部位の皮膚反応が強い症例で有意な生存期間延長が報告されており(文献6),効果が期待される症例の絞り込みができれば,これらのpeptide vaccine療法についても実用化の可能性はあると考えられます。また,膵癌細胞株から作製されたalgenpantucel-LやGVAXの2種類のwhole-cell vaccineの第3相試験も進行中で,その結果が待たれます。
免疫チェックポイント阻害薬についても,抗C TLA-4(cytotoxic T lymphocyte antigen 4)抗体薬であるipilimumabや抗PD-1抗体薬であるpidilizumabについて,単独療法およびワクチンや抗癌剤との併用療法の第2相臨床試験が切除不能膵癌患者を対象に進行中です。さらに,難治性リンパ性白血病や非ホジキンリンパ腫患者に対して,CD19を標的とするキメラ抗原受容体(CD19-chimeric antigen receptor:CD19-CAR)改変T細胞移入療法の高い有効性が報告されていますが,膵癌においてもmesothelinを標的としたCAR-T細胞移入療法の臨床試験が進められており,これら遺伝子改変T細胞療法の膵癌領域での開発も期待されます。
以上のように,膵癌においても様々な免疫療法の臨床効果についての検証が行われており,今後の発展が期待されています。膵癌は線維化を多く伴う特徴を有しており,そのために腫瘍組織内にリンパ球浸潤が起こりにくいなど,免疫療法の効果が発現しにくい癌微小環境を有していることが指摘されています(文献7)。膵癌における免疫療法を成功に導くためには,こうした膵癌特有の癌微小環境へのアプローチも必要であると考えられます。
【文献】
1) Uram JN, et al:Curr Probl Cancer. 2013;37(5): 273-9.
2) Di Caro G, et al:Expert Rev Anticancer Ther. 2014;14(10):1219-28.
3) Salman B, et al:Oncoimmunology. 2013;2(12): e26662.
4) Buanes T, et al:ASCO Meeting Abstracts. 2009; 27(15S):4601.
5) Middleton GW, et al:ASCO Meeting Abstracts. 2013;31(18S):LBA4004.
6) Yamaue H, et al:J Clin Oncol. 2013;31(Suppl 4;abstr 223).
7) Clark CE, et al:Cancer Res. 2007;67(19):9518-27.