これまで病院総合医として研鑽を積んできたが、この春からは新米家庭医として第一歩を踏み出すことになった。どんなフィールドであってもやりがいがあり、この職業を選んで本当に良かったと実感している。
卒後10年目にして初めて訪問診療を担当したときのこと。患者との出会いが患者宅というのは、自分にとってとても新鮮であり、初対面に胸躍らせつつご自宅に向かった。
患者は脳出血後から寝たきりになってしまった高齢男性であった。握手とアイコンタクトで挨拶を交わした。病棟とは比べものにならないほどの情報量を持つベッドサイド、聴診にこれ以上最適な場所はないだろうというくらい静寂な空間、そして気兼ねなく世間話ができる最高の環境に感動を覚えた。
一通り診療を終え、次回の訪問日を告げて診療所に戻ろうとしたとき、ふと自分が訪問診療初心者であることを思い出し我に返った。それを告げることで不安にさせるのではないかとも思ったが、やはり告げておくべきと考え直した。「実は今日が初めての訪問診療なんです。でも、精いっぱい診させていただきます」と、気持ちを込めて伝えた。「丁寧に診察してくださってありがとう。今後ともよろしくね、先生」 と奥さんが笑顔でこたえてくれた。お宅を出て車に戻るとき、自分の胸が高鳴るのがわかった。この日の素敵な出会いを、この清々しい気持ちを、ずっと忘れずにいたい。
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