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精神病質者(サイコパス)とは

No.4758 (2015年07月04日発行) P.68

福井裕輝 (NPO法人性障害専門医療センター代表理事/ 一般社団法人男女問題解決支援センター 代表理事)

登録日: 2015-07-04

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

精神病質者(サイコパス)についてご解説下さい。たとえば,チェックリストを用いた適切な診断方法や,脳の画像所見でわかっていることをご教示下さい。 (埼玉県 S)

【A】

現在のサイコパス概念の雛形をつくったのはHervey Milton Cleckleyとされています。彼はその書,“The Mask of Sanity(正気の仮面)”(文献1)において,多くの症例を詳細に記載し,分析しました。その後に,Robert D. Hareが発展させて,PCL-R(Psychopathy Checklist-Revised)(表1)(文献2) を作成しました。正確な評点にはトレーニングを受けて資格を取る必要があります。
現在の診断基準にみられる類似疾患として,『精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)』では反社会性パーソナリティ障害,『疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)』では非社会性パーソナリティ障害が挙げられます。
ただし,サイコパス概念と反社会性および非社会性パーソナリティ障害の概念の間には,決定的な違いがあるとされています。前者では,衝動性や攻撃性などの問題行動に加え,共感性や罪悪感の欠如など,内面的な側面も重視して基準が設けられているのに対して,後者では,問題行動のみを評価対象としています。そのため,刑務所などに収容されている問題行動がある者は,ほとんど後者の概念に当てはまってしまう傾向がありました。このように医学的病理を取り扱うことは不適切であると考えられるようになり,現在,サイコパスを対象に積極的な研究が行われています。
サイコパス研究から見えてきたことは,彼らの病理の中核に情動障害があるということです。つまり,共感性の欠如などがあるために,その結果として様々な問題行動を引き起こすのです。
サイコパスの評価については,一般的に情動的/対人関係的側面(因子1)と問題行動的側面(因子2)にわけて考えます。中には,因子2の問題があまりみられず,社会適応が良い場合に,因子1の特徴を存分に発揮して,通常ではできないような思い切った決断を実行し,社会的に成功することもあります。彼らはホワイトカラー・サイコパスなどと呼ばれ,政治家や経営者に多いという報告もあります。
では,情動障害はどのようにして引き起こされるのでしょうか。最近の脳画像研究から明らかになってきたことは,扁桃体および前頭前皮質腹内側部の器質的・機能的異常と関連があるのではないか,ということです。これらはまだ仮説の段階ですが,今後の研究の蓄積によって明確になってくるものと思われます。
長年,サイコパスを研究してきた筆者の思いは,彼らの治療法を早期に確立したいということです。診断をつけて脳の病理を解明するだけでは,単なる「レッテル貼り」になってしまう恐れがあります。彼らを治療して,隔離から解き放ち,社会でしっかりと処遇する,そういう時代が来ることを切に期待しています。

【文献】


1) Cleckley H:The Mask of Sanity. 1st ed. Mosby, 1941.
2) Hare RD:Manual for the Hare Psychopathy Checklist-Revised. Multi-Health Systems, 1991.

【参考】

▼ ジェームズ・ブレア, 他:サイコパス─冷淡な脳. 福井裕輝, 訳. 星和書店, 2009.

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