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人生の「ものがたり」に寄り添う[プラタナス]

No.4784 (2016年01月02日発行) P.3

鈴木 央 (鈴木内科医院院長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-31

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  • 彼はさみしがりだった。私と看護師が訪問診療に行くと、診察が終わった後にいつも10分ほど雑談をした。昨日見たテレビ番組のこと、好きな映画や音楽のこと、彼はこの時間を楽しみに私たちの訪問診療を心待ちにしてくれていた。

    82歳、日中独居の男性。夜には息子さんが帰るがほとんど交流はない。慢性閉塞性肺疾患のため、外出困難となり訪問診療が導入された。彼は30年ほど前から私たちの診療所に通院をしていた。もともとは助産師をしていた一家に生まれた。彼は保育士として地域で子どもたちを預かる仕事をしていた。20年ほど前には離婚を経験した。その時期にはすさんだ生活を送ったようで、アルコール多飲、胃潰瘍からの出血などでしばしば当院に運び込まれた。精神的にも脆く、何かストレスがあるとひどく落ち込み自暴自棄になることも少なくなかった。再三の指導にもかかわらず、最近まで喫煙していた。

    話をすると、彼が子どもの頃劇団に所属し、映画に出演したこともあったこと、好きな映画や音楽が私と意外と近いこともわかった。子どもたちと海外旅行をした時の話は何回も繰り返し聞かされた。

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