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MRIで異常のないめまい・平衡機能異常をどう診る?【TIAと鑑別すべき疾患】

No.4779 (2015年11月28日発行) P.63

岡田 靖 (国立病院機構九州医療センター 臨床研究センター長/脳血管・神経内科)

登録日: 2015-11-28

最終更新日: 2016-12-14

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【Q】

60歳,男性。晩酌少々で,特に高血圧の既往歴・治療歴なし。1週間前の起床時「めまい」「平衡機能異常」を自覚し入院しました。MRIでは異常を認めず,血液生化学検査の結果も基準値内。責任病巣は右下小脳動脈との指摘で,後遺症もなく回復し退院となりました。病因は脳血管のspasmで,一過性脳虚血発作(transient ischemic attacks:TIA)あるいは可逆性虚血性神経脱落症状(reversible ischemic neurological deficit:RIND)と考えてよいですか。 (高知県 F)

【A】

高血圧の既往がない60歳,男性で,これまでにない起立時のめまい,平衡機能異常を起床時より自覚され,MRI(おそらく拡散強調画像を含む)で異常を認めず,血液生化学検査も基準値内,退院までの数日間で症状が完全に消失した症例と思われます。画像診断が発達した今日では,RINDの診断名は用いられず,虚血性脳卒中と考えられる場合,TIA(24時間以内に症状消失)または脳梗塞と診断します。本例はTIAの可能性はありますが,めまい単独の症状ではTIAとはみなさないとされています(表1)(文献1) 。この場合,まず起立性低血圧の有無や良性発作性頭位性めまいなどの鑑別が必要になります。これらが否定的であれば,緊急疾患possible TIAとして慎重に観察を続ける必要があります。年齢60歳,初発の症状であれば,入院による観察は妥当と思われます(文献2)。
TIAのリスク診断に役立つABCD2スコア(表2)(文献3)では,本例の場合,年齢60歳以上と症状の持続時間1時間以上が加点され,3点になります。続発する脳梗塞の頻度は2日間で1%程度と判断され,低リスクの範疇に入ります。しかし,もし来院時の血圧がいつもより持続的に上昇して140/90mmHg以上を呈している,あるいは病歴の中から局所神経症状(半身の麻痺や言語障害など,加点はされないが半身の感覚障害も重要)の存在をうかがえることがあれば,ハイリスクTIAとなります。その場合,責任病巣としては,脳幹部の急性期脳梗塞などが考えられます。脳幹部の小梗塞の場合,発症後8時間程度はMRIで病巣が出現しないことがあり,来院時の緊急MRIで拡散強調画像が陰性でも,翌日のMRI再検をお勧めします。また,同時にMR血管撮影を行い,椎骨脳底動脈の動脈硬化性狭窄・閉塞病変などの所見がないかを確かめる必要があります。脳血管のspasmによる一過性脳虚血は稀と考えられ,本例の場合も考えにくいように思います。
また,今後,高血圧,糖尿病,脂質異常もなく,精査の範囲で有意な動脈硬化性血管病変がない場合は,あえて抗血小板薬を処方しなくてもよいでしょう。非特異的なめまい症(耳性めまいを含む)として耳鼻科での精査を勧めるほか,過労,睡眠不足,ストレスを避けるよう日常生活指導を行い,薬物療法として,アデノシン三リン酸などの微小血管循環改善薬,ベタヒスチンなどの抗めまい薬を一時的に処方して経過をみてもよいと思います。

【文献】


1) National Institute of Neurological Disorders and Stroke Ad Hoc Committee:Stroke. 1990;21(4):637-76.
2) Okada Y:Front Neurol Neurosci. 2014;33:19-29.
3) Johnston SC, et al:Lancet. 2007;369(9558):283-92.

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