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画像所見で脂肪肝と非アルコール性脂肪肝炎をどう鑑別する?【NASHに特徴的なKupffer細胞の貪食能低下を評価する試みやエラストグラフィーの応用に期待】

No.4790 (2016年02月13日発行) P.61

横山裕一 (慶應義塾大学保健管理センター准教授)

登録日: 2016-02-13

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

脂肪肝と非アルコール性脂肪肝炎の鑑別診断はどうしたらよいですか。特に,画像診断について教えて下さい。また,肝細胞癌との関係についてもご解説下さい。 (岐阜県 K)

【A】

かつては,脂肪肝発症の原因として過剰飲酒が重要視されていましたが,近年,飲酒習慣と無関係に,肥満や糖尿病が原因で発症する脂肪肝(非アルコール性脂肪肝,non-alcoholic fatty liver:NAFL)が注目されています。NAFLの一部から,非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steato-hepatitis:NASH)が発症しますが,これらNAFLとNASHを合わせ,NAFL disease (NAFLD)と言います。NASHの一部では,肝線維化が進み,肝硬変への進展や肝細胞癌の併発を伴うので,NAFL/NASHの鑑別,またはNAFLDの進行程度の予測は重要です。その正確な判定には肝生検が必要ですが,近年,非侵襲的な方法が提唱されています。
NASHの進行に伴い,肝硬変の特徴である血液中の血小板減少,アルブミン低下,肝線維化マーカー(Ⅳ型コラーゲンやヒアルロン酸)上昇,AST/ALT比上昇などが起こります。また,NASHでは,その発症機序である鉄過剰症やインスリン抵抗性を反映し,血中フェリチンの上昇や空腹時インスリンの上昇も起こります。これらの所見を組み合わせNAFL/NASHの鑑別を行うNAFIC(N
ASH Ferritin Insulin Collagen)指数(文献1)やNAFLDの線維化の程度を予測するNAFLD線維化指数(文献2)が提唱されています(表1)。
現在,通常の腹部超音波,CT,MRIなどの画像検査では肝硬変になっていないNASHとNAFLの鑑別はできません。しかし,NASHでは肝臓のKupffer細胞貪食能低下が起こることから,同細胞に貪食される造影剤を利用した両者の鑑別が試みられています。
レボビストRを用いたエコー検査(文献3)や,superparamagnetic iron oxide(SPIO)を用いたMRI検査が提唱されていますが,筆者らも臨床例でSPIOを用いたMRI検査(文献4)の鑑別成績を報告しています。それに加えて,Kupffer細胞が貪食する99mTc-フチン酸を用いたシンチグラフィー検査もNAFLDの中からのNASH症例の拾い上げに有益である可能性が報告されています(文献5)。
また,せん断波という波動の伝播速度は,通過媒体の硬度によって変化します。この特性を利用し,肝臓の硬さを測定するエラストグラフィーという装置が開発され,やはり,NAFLDからのNA
SH症例の拾い上げへの応用が期待されます。しかし,本検査では,厚い皮下脂肪が測定値に影響を与えるため,高度肥満例ではその評価に注意が必要です(文献6)。
わが国における肝細胞癌の背景因子は,C型肝炎ウイルス(HCV)感染が約70%,B型肝炎ウイルス感染が約10%,過剰飲酒やNAFLDを含む「その他」が約20%です。NASH肝硬変例とHCV肝硬変例を,同じプロトコールで中央値3.2年追跡した米国の臨床研究では,前者の12.8%,後者の20.3%に肝細胞癌が発症し,肝硬変と診断されてからの毎年の累積肝細胞癌発症率はそれぞれ2.6%,4.0%であったとされています(文献7)。すなわち,肝硬変症例に限れば,NASHの発癌率はHCVの発癌率より小さいことが示唆されます。しかしこの研究では,たとえ機会飲酒でも飲酒が両群の肝細胞癌の発生率上昇に寄与することを示しており,非飲酒群に限ると両群の発癌率は同等である可能性も示されています。さらに,肝細胞癌を発症したNASHとHCV肝障害症例の検討では,肝硬変合併例はそれぞれ58.3%と85.6%であったとされており(文献8) ,NASHでは非肝硬変例からの発癌が多いことも報告されています。それらのことを考慮すると,NASHの発癌率とHCVの発癌率には大差ない可能性もあります。加えて,後者の知見は,NASHと診断された場合,早期から肝細胞癌発症への注意が必要であることを警告しています。

【文献】
1) Angulo P, et al:Hepatology. 2007;45(4):846-54.
2) Sumida Y, et al:J Gastroenterol. 2011;46(2):257-68.
3) Moriyasu F, et al:Hepatol Res. 2005;33(2):97-9.
4) Tomita K, et al:J Magn Reson Imaging. 2008;28(6):1444-50.
5) Kikuchi M, et al:Scand J Gastroenterol. 2009;44(2):229-36.
6) Scott DR, et al:Antivir Ther. 2010;15(1):1-11.
7) Ascha MS, et al:Hepatology. 2010;51(6):1972-8.
8) Mittal S, et al:Clin Gastroenterol Hepatol. 2015;13(3):594-601.


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