株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

感動する手術 [プラタナス]

No.4799 (2016年04月16日発行) P.3

今 明秀 (八戸市立市民病院救命救急センター所長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-26

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 13年前の夏、男性は2tトラックの運転中、中央分離帯を越えて突っ込んできた4WD車と正面衝突となった。午前9時、私のいる救命救急センターのホットラインが鳴る。「ショック状態、呼吸不全、意識障害、胸部外傷、開放骨折で、ロードアンドゴーです」金曜日の朝の救命救急センターは手薄だった。

    救急車のハッチが開いた。救急隊員が圧迫する下腿の開放創から骨髄のオイル成分が血液に混じって滴り落ちていた。私の声に男性はわずかに反応するだけで、顔色は土気色で橈骨動脈は触れない。残暑だというのに体は冷え切っていた。「死ぬかもしれない」皆がそう思った。初療室へ患者を誘導し、初期診療と処置が始まる。血圧測定不能。全速力の点滴と同時に行った超音波検査では、いきなり心臓の周りに血液が溜まっているのが見えた。さらに腹腔内出血、左胸腔内大量出血もある。最初に治すべきはどっちだ。初療室に緊張が走った。2人の医師は私の顔を見る。「最初に心タンポナーデの緊急穿刺、それから左大量血胸のドレーン、次に気管挿管と輸血だ。O型赤血球を8単位用意して手術室へ向かう。家族への連絡はまだか?」私の声でナースが動き出す。

    残り517文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連求人情報

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top