【Q】
脂肪肝患者には肝硬変,肝細胞癌に進展しやすい人とそうではない人がいます。進展しやすい人を見わける目安はありますか。また,経過観察はどのようにすればよいでしょうか。ご回答は久留米大学・川口 巧先生に。
【質問者】
四柳 宏:東京大学大学院医学系研究科生体防御感染症学准教授
【A】
非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)は,病態がほとんど進行しない非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver:NAFL)と,肝硬変や肝細胞癌に進展しうる非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)にわけられます(文献1)。
NASHは肝生検により肝細胞内の大脂肪滴と肝細胞の風船様変性を認めることにより診断されますが,NAFLDの患者全例に肝生検を施行することは現実的に困難です。また,肝生検にはサンプリングエラーや合併症もあること,NASH患者の30~50%は肝線維化が進展することから(文献1),肝線維化の予測式が病期進展度を推測しうる1つの目安になると考えられます。
これまで様々な肝線維化の予測式が報告されていますが,FIB-4 index(表1)(文献2~4) は日本人NA FLD患者に適し,日常臨床で評価しうる予測式です(文献3)。Sumidaら(文献3)はFIB-4 indexの下限値を1.45以下とした場合,その基準を満たす98%の症例が肝線維化非進展例であること,また,上限値を2.67以上とした場合,その基準を満たす80%の症例が肝線維化進展例であることを報告しています。
近年,血清ALT値が基準値内であるにもかかわらず肝線維化が進展するNAFLD患者が注目されています。Yonedaら(文献4)は,ALT値が基準値内のNAFLD患者においても,FIB-4 indexの上限値を1.659以上に設定することで肝線維化進展例の診断能が向上することを明らかにしています。このように,FIB-4 indexを指標として肝線維化進展例を早期に発見することがNAFLD患者の経過観察において重要と考えられます。
肝細胞癌はNAFLDの重要な合併症であり,定期的な腫瘍マーカー検査と画像検査が必要です。NAFLDにおける肝細胞癌の発症率は年率0.043%(NASH─肝硬変では年率2%)とC型慢性肝炎と比較し高率ではありませんが(文献1,5),既知の肝発癌リスク因子である高齢,肝線維化の進展,糖尿病の合併およびパタチン様ホスホリパーゼ3(PNPLA3)遺伝子の一塩基多型(保険適用外)を有するNAFLD患者では厳重な経過観察が必要です(文献1,5~6)。
また,NAFLD患者は脂質異常症,高血圧,閉塞性睡眠時無呼吸,悪性腫瘍,心臓・脳血管病変,および慢性腎臓病など様々な合併症を発症しうることから(文献1) ,これらの疾患にも留意して経過観察する必要があります。
1) 日本消化器病学会, 編:NAFLD/NASH診療ガイドライン2014. 南江堂, 2014, p164.
2) Sterling RK, et al:Hepatology. 2006;43(6): 1317-25.
3) Sumida Y, et al:BMC Gastroenterol. 2012;12:2.
4) Yoneda M, et al:J Gastroenterol. 2013;48(9): 1051-60.
5) Kawamura Y, et al:Am J Gastroenterol. 2012; 107(2):253-61.
6) Tokushige K, et al:J Gastroenterol Hepatol. 2013;28(Suppl 4):88-92.