【Q】
化学療法施行時のB型肝炎の再活性化対策について,危険因子や具体的な取り組みを含めてご教示下さい。京都第二赤十字病院・盛田篤広先生に。
【質問者】
角田圭雄:京都府立医科大学大学院医学研究科 消化器内科学講師
【A】
(1)HBV再活性化の危険因子
B型肝炎ウイルス(HBV)の既往感染者におけるHBV再活性化で最も発生頻度が高いのは,悪性リンパ腫におけるリツキシマブ併用化学療法です。リツキシマブを用いない悪性リンパ腫に対する化学療法では,HBs抗原陽性者におけるHBV再活性化率は24~53%と報告されていました。既往感染者におけるリツキシマブ併用化学療法でのHBV再活性化率は,2001年の初めての報告以来,Yeoらの23.8%からKooらの2.2%まで,様々な発生率の報告があります。わが国からはFukushimaら,Mimuraら,Matsueらがそれぞれ4.2%,7.7%,8.9%と報告しています。
造血器腫瘍におけるリツキシマブ以外の薬剤によるHBV再活性化や,固形癌における既往感染者からのHBV再活性化の報告は限られています。癌腫と抗癌薬はそれぞれ乳癌(テモゾロミド),肝細胞癌(TSU-68),脳腫瘍(シクロホスファミド+ドキソルビシン+5-FU),肺癌(カルボプラチン+パクリタキセル),膵癌(マイトマイシンC+hydroxycamptothecin)などです(文献1)。
劇症肝炎・遅発性肝不全および急性肝不全での全国調査によると,2004~11年に31例の既往感染者からの再活性化例の登録があり,これらのうち8例はリツキシマブ以外の免疫抑制・化学療法が誘因で,その中で2例が乳癌,5例が造血器腫瘍でした(文献2)。固形癌に対する化学療法でのHBV再活性化の頻度や再活性化を起こしやすい化学療法の種類などは明らかではありませんが,重症化することもあります。今後,固形癌におけるHBV再活性化の現状を明らかにするために,前向き試験での検討が待たれます。
(2)当院でのHBV再活性化対策
免疫抑制療法・化学療法を行う際には厚生労働省研究班による「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン(改訂版)」(文献3)に従った対応を推奨しています。
具体的な対策としては,院内勉強会でHBV再活性化対策についての講演を行って,当院でのHBV再活性化対策マニュアルを電子カルテ上から閲覧可能にしています。化学療法レジメン登録時,あるいはHBV再活性化についての注意喚起のある薬剤オーダー時には,HBV再活性化対策を促す文言を電子カルテ上にポップアップしています。また,薬剤部にてレジメン登録を確認した際にも対策を確認するコメントを電子カルテ上に付箋で添付するなど,複数職種からの注意喚起を行っています。検査オーダーにおいても「再活性化セット」を作成し,検査オーダーの簡素化,医事課での把握などに努めています。
桐島ら(文献4)は院内での教育的介入によってHBV関連マーカーの測定率が24.5%から76.8%に著明に改善したと報告しています。
(3)今後のHBV再活性化対策の見込み
リツキシマブ併用以外の化学療法,固形癌に対する化学療法での再活性化は報告が限られており,費用対効果に対する疑問の声も上がっています。現状ではガイドラインに即した対応を行う必要がありますが,今後は見直される可能性もあります。また,高感度HBs抗原定量の開発(文献5)も行われており,再活性化対策を含めたHBVモニタリングに費用削減などの面からも,HBV DNA定量 に取って代わる可能性も指摘されています。
【文献】
1) 持田 智, 編:de novo B型肝炎─HBV再活性化予防のための基礎知識. 医薬ジャーナル社, 2013.
2) 持田 智:肝胆膵. 2012;65(4):651-8.
3) 日本肝臓学会:B型肝炎治療ガイドライン(第2版). 2014.
4) 桐島寿彦, 他:肝臓. 2013;54(8):559-62.
5) Shinkai N, et al:J Clin Microbiol. 2013;51(11): 3484-91.