No.4761 (2015年07月25日発行) P.56
問田千晶 (横浜市立大学救急医学)
森村尚登 (横浜市立大学救急医学教授)
登録日: 2015-07-25
最終更新日: 2016-10-26
CBRNEとは,従来NBC(核,生物剤,化学剤)として定義されていたものに加え,放射性物質や爆発物を含めたマルチハザード,その後に生じる社会的な脅威をも包括した概念である。化学剤(Chem-ical),生物剤(Biological),放射性物質(Radiological),核(Nuclear),爆発物(Explosive)により生じた災害をCBRNE災害と称する(文献1)。2001年に米国で発生した同時多発テロ事件をきっかけに,マルチハザードの概念が注目され,CBRNE災害に対する問題意識が高まった。日本では1995年に地下鉄サリン事件が発生し,都市型CBRNEテロ災害にきわめて重大な教訓を残した(文献2)。
CBRNE災害では,原因物質が不明のまま多数の傷病者が医療機関に殺到する事態が想定され,原因物質ごとに異なる医療体制が整備されてきた従来の国内体制のもとでは,迅速な対応は困難である。そのため,CBRNE災害の初期対応としては,マルチハザードを想定して,除染エリアの設定,除染処置の必要性を判断するための除染前トリアージ,除染,重症度や緊急度を判断するための除染後トリアージ,原因物質に対する治療,の手順で進めることが不可欠である。また,初期対応を単独の医療機関のみで完結させることは困難であることから,消防や警察といった関係機関との緊密な連携が必要となる。
近年,CBRNEテロ災害の脅威は増しており,マルチハザードに対応可能な医療体制の整備が求められる。
1) MIMMS日本委員会, 訳:MIMMS 大事故災害への医療対応. 第3版. 永井書店, 2013, p115-20.
2) Tokuda Y, et al:Resuscitation. 2006;68(2):193-202.