No.4828 (2016年11月05日発行) P.73
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2016-11-05
最終更新日: 2016-10-31
瀬戸内国際芸術祭がいくつもの島々を舞台に開催されている。高松から船で15分あまり、ハンセン病の国立療養所大島青松園がある大島も会場のひとつだ。空も海も真っ青な秋晴れの日、この島を訪れた。
かなり前に、「らい療養所」で調査をおこなった神谷美恵子の著作集を読んだことはあるが、療養所についてうんと興味があった訳ではない。たまたま、最近『ハンセン病療養所に生きた女たち』(福西征子著、昭和堂)を読んで、えらく考えさせられたところだったので、立ち寄ってみたくなった。
ボランティアの方の説明を受けながら、島の一部を見学した。道にはうるさいほどの音量で音楽が鳴り続けていた。どうしてかと思っていたら、目の不自由な方が歩く時のための「盲導鈴」だそうである。恥ずかしいことに、まったくの無知であった。
61haというさほど広くはない島に、納骨堂、いくつもの宗派の施設、さらに火葬場まであることが、療養所の置かれてきた状況を物語る。その脇にあるミニ八十八カ所巡りの石仏と小道を見ながら、『砂の器』の巡礼シーンをぼんやり思い出していた。
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