梅津濟美(1917~1996)著のエッセイ集。梅津氏は山形県生まれの英文学者で、1989年『ブレイク全著作』で日本翻訳文化賞を受賞した。ほかに『ブレイクを語る』『ブレイク研究』『ブレイクの手紙』がある(1987年、八潮出版社刊)
定員の後ろに引っかかった大学での最初の講義が梅津濟美先生の授業だった。「600万人のユダヤ人が虐殺されたという600万人がわかるか、大学に入ったから人よりものがわかるなどといい気になるな、丸を、いや人間の形をした図形を600万個描いてみろ、それを描く手の疲労という感覚によって600万人の死という事件の大きさがほんの少しわかるというのが人間なのだ」。
頭を殴られたような気がした。「自然科学は人間とは無関係に成り立つ対象の値、地球は半径6371kmの球であるといういわば対象の絶対値のみを扱い、それのみを真理だとする。ところが、人間にとって地球が球ではなく平らであるとしか感じないのはひとつの正確な科学現象なのだ。それは地球という物体の絶対値に対して人間と地球との反応値または関係値なのであって、『地球が平らである』ということはまったく正しい値なのである。
残り356文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する