【Q】
恥ずかしいとき,怒っているとき,また更年期症状として顔が赤くなるのは,交感神経もしくは副交感神経の作用によるものですか。また,上記のようなときでなくても顔が赤くほてるのはどういうしくみでしょうか。緊張したときや恐怖時に出る冷や汗と運動時の汗では作用する自律神経は同じでしょうか。 (東京都 F)
【A】
体の大部分(体幹や四肢など)の皮膚血管には,交感神経活動により血管収縮(血流減少)を起こす交感性血管収縮線維が分布しており,これらの線維の持続的な神経活動(トーヌス)の強さによって血流量を調節しています。
しかしながら,顔面皮膚血管には交感性血管収縮線維(図1水色線)に加えて,顔面領域に特有な副交感神経活動により血管拡張(血流増加)を起こす副交感性血管拡張線維(図1点線)が存在しています(文献1)。これらの血管拡張線維は,脳(脳幹)に由来していることから,大脳における精神活動状態(図1①)に密接に関連しており(文献2),恥ずかしさや怒りの感情に伴う顔面の紅潮作用において重要だと考えられます。
また,これらの副交感性血管拡張線維の働きと女性ホルモン(エストロゲンなど)との関連性も示唆されていることから(文献3),閉経後のホルモンバランスの変化が副交感性血管拡張線維の働きに影響を及ぼし,これらが更年期にみられる顔面の紅潮(ホットフラッシュ)に関連している可能性があります。
このほか,寒冷時や虫刺されなどによっても顔面の紅潮が生じますが,これらは顔面部への感覚刺激が三叉神経に含まれる感覚神経(図1青線)に軸索反射(図1②)を起こすことで誘発される血管拡張(血流増加)が原因であると考えられています(文献4)。
発汗も自律神経性調節を受けていますが,一般的に交感神経によってのみ生じると考えられています(文献5)。緊張や恐怖を感じたときに起こる精神性発汗や運動時にみられる温熱性発汗においては,交感神経活動亢進によるエクリン腺からの発汗促進が起こります。ただし,これらの分泌調節には違いがあり,精神性発汗は大脳皮質により制御されており,温熱性発汗には視床下部の体温調節中枢の働きが重要です。
このように,顔面領域の血流や発汗などの自律機能調節には,副交感神経と交感神経およびそれらのバランスがきわめて重要であり,これらの破綻が諸種の自律神経の異常を伴う機能障害の発症機序や病態に密接に関連していると考えられます。
1) Ishii H, et al:J Physiol. 2005;569(Pt 2):617-29.
2) 石井久淑:北医大デンタルトピックス. 2014;45:1-11.
3) Ishii H, et al:Arch Oral Biol. 2009;54(6):533-42.
4) 和泉博之:北医療大歯誌. 2011;30:1-42.
5) 和泉博之, 他, 編:ビジュアル生理学・口腔生理学. 第3版. 学建書院, 2014, p184-8.