【Q】
乳癌の肝転移病巣に対する血管塞栓療法について質問致します。65歳でホルモン療法と経口抗癌剤で治療中です。肝腫瘤は径2~3cmのものが3~4個あります。このような症例の血管塞栓療法の適応の有無,治療効果,副作用,合併症についてご教示下さい。 (新潟県 M)
【A】
転移性肝癌に対する血管塞栓療法(肝動脈塞栓術)については,まだまだ一般的ではなく,賛否もあります。しかし,高い局所効果がある治療ですので,適応症例は限られるものの,有効な治療の1つと考えます。加えて,これまで使用できる塞栓物質はジェルパートR(肝細胞癌のみ)とスフェレックスRぐらいでしたが,2015年4月より多血性腫瘍を対象に,球状塞栓物質(ヘパスフィアR,エンボスフィアR,ディーシービーズRなど)がわが国でも使用可能となり,転移性肝癌でのIVR領域が広がりました。今後,多くの施設から治療報告が挙がってくるかと思います。
乳癌の肝転移(図1)の場合には,肝臓に転移している時点では,既にほかの臓器にも転移があることが多く,肝臓に対する治療が予後やほかの治療にどのような影響をもたらすかを考えながら治療を計画する必要があります。肝転移は肺転移やリンパ節転移などに比べて進行が速い場合が多く,予後因子となりやすい病態と考えます。肝転移の進行が予後を規定する症例では,(1)化学療法不応例,(2)副作用不耐例が良い適応です。また,臨床現場では(3)全身化学療法拒否例でも,肝転移の制御が必要な場合には治療適応になると考えます。拒否例でも肝病変の治療が奏効すれば,抗癌剤治療に対する抵抗も少なくなり,肝転移縮小後に全身化学療法に移行できる例も少なくはありません。
乳癌肝転移に対する肝動脈塞栓術についてのまとまった報告はあまりありませんが,非常に高い局所効果があります。乳癌の肝転移は比較的血流が豊富であり,また,抗癌剤に対して感受性の高い場合が多く,塞栓術による治療成績が比較的良い癌腫と考えています。化学療法不応・不耐例を対象とした当院での調査では,奏効率は24%,有効率は49%でした。生存期間中央値は肝転移単独例では18.9カ月,肝外病変合併例では11.4カ月であり,患者背景を考慮すると良好な成績が得られていると思います。
副作用については,抗癌剤使用量が少ないため,血液毒性はほとんどありません。アドリアシンRやファルモルビシンRなどの耐用量制限のある薬剤も比較的安全に使用することができます。塞栓術特有の合併症として,治療後に腹痛や発熱が生じる場合がありますが,ほとんどの症例では数日で改善します。重篤な合併症として肝膿瘍や肝梗塞,膵炎などの報告が稀にあります。
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