2016年6月、スコットランドの首都、エジンバラを訪れた。エジンバラは政治だけではなく、文化、教育の中心であり,Tounis Collegeとして1583年にエジンバラ大学が創設された。
エジンバラ中央駅から南に5分ほどSouth Bridge Streetを歩くと、旧大学(Old College)に到着する。Old College前の大通りをさらに数分南に歩くと、向かいに堂々たるエジンバラ王立外科医協会の建物がある。元は外科病院も含めた旧王立病院があったところで、王立外科医ホールやその博物館がある。この区画を隔てる街路名に、“Infirmary Street”ならびに“Old Infirmary Street”が現存する。“Infirmary”とは、ラテン語の“infirmus=sick”+“-ary”(場所を表す接尾語)からなる単語で、古来からの医療施設の呼び名であり、「病院」というより「施療院」と訳したほうがよいと思われる。
外科医ホール博物館は、最近改修が終了したばかりで、3階の医学史関連の展示物に加え、4階には臓器別の病理標本が展示されている。医学史関連フロアには、コナン・ドイルの恩師でシャーロック・ホームズのモデル、ジョセフ・ベル教授が紹介されている。祖父、ベンジャミン・ベルは科学レベルで外科医療を最初に実践したsurgeonと称され、エジンバラ大学外科学講座を創設した教授である。孫のジョセフ・ベルも外科医であり、ジョセフ・リスター卿と一緒に研究生活をした。患者をみると、職業や生地などをものの見事に言い当て学生を煙に巻いた人で、学んだコナン・ドイルはその推理法に感銘を受けた。
コナン・ドイル著『四つの署名』でホームズが語るところでは、「理想的な探偵の条件は3つ。観察力と推理力と知識だ」という。しかし、この3つの条件は、探偵に限らない。つまり、読者自身が3条件を備えることで初めて社会に役立ち、自らも成功者の列に加わることができるのであろう。観察力とは事実を正確に識別する能力であり、「見る」と「観る」ではまったく違うと『ボヘミアの醜聞』で述べている。
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