医師は世間から一般に高額報酬の職業と思われているが、医師の退職金が少ないことはあまり知られていない。
退職金をグラフにするとわかるが、直線ではなく上昇曲線を描き、短期間で退職すると低額になる。しかも自己都合退職になると額は極端に少なくなる。いつも病院を離れる際に一筆書かされるアレである。退職金は江戸時代の暖簾分け制度に端を発すると言われ、一箇所で長期間奉職した忠誠心に報いる意味合いがある。短期間で病院を移動する医師にとっては、そもそも退職金制度は不利で馴染まない性質のものと言えよう。
四年制大学に進んだ高校の同級生は、通常20歳代前半に就職すると、60歳(または以降)の定年まで1つの企業で勤め上げる。一部上場企業に勤めるといくらの退職金を貰うのだろうか。それは2013(平成25)年に経団連より発表された「2014年9月度退職金・年金に関する実態調査結果」が参考になる。それによると、60歳・総合職、大卒の退職金は2357.7万円となっている。もっとも、この調査対象となった企業規模は500人以上が8割を占めることから、1000人以上の大企業に限るとさらに高額になる可能性が高い。
「サラリーマンと違って医師には定年がない。数年余分に働けば退職金分はカバーできる」と思われるかもしれないが、退職金は税制面で大きな優遇を受けていることを忘れてはならない。国税庁の試算によると、勤続29年2カ月で退職金2300万円の場合の源泉徴収額は約38万円となっている。毎年自分で確定申告をしている者であれば、この額が破格に安い金額であることがわかるだろう。さらに、健康保険や介護保険などの社会保険料もかからない。退職金と同じ手取り額を給与で得ようとすれば、大雑把に言って退職金の2倍の額を稼ぐ必要がある。言い換えれば、医師が5000万円弱を稼いでやっと、企業に勤める同級生の退職金と同じ手取り額になるわけである。
かくして退職金を貰えない医師が、老後のために60歳を過ぎても一生懸命働くわけだが、そこでも大きな試練が待っている。在職老齢年金制度である。これは老齢厚生年金を受給できる場合、一定の所得がある場合に年金支給額の全部または一部を停止する仕組みである。
以下に、在職老齢年金について順に説明していきたい。在職老齢年金の仕組みは年齢区分で異なるので、①60~64歳、②65~69歳、③70歳以降の期間、の3期間にわける。
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