中年女性に好発し,進行すると黄疸を呈し,肝不全へと至る慢性胆汁うっ滞性肝疾患として,原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC)という疾患概念が提唱されたのは,およそ70年前のことである。かつては,ほとんどのPBC症例が肝硬変の病像を呈していたが,抗ミトコンドリア抗体測定の臨床応用に代表される早期診断技術の進歩や,1990年代以降に確立したウルソデオキシコール酸の使用などにより,今日では多くのPBC症例の長期予後は良好であり,肝硬変にまで進展する症例は少数となってきた。
このような背景に加え,各国の患者団体からの強い要請もあり,2015年,PBCを新たに“primary biliary cholangitis”と呼称することが欧米の学会で決定された1)。わが国でも同様に,厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班からの要望を受け,2016年春,日本肝臓学会・日本消化器病学会は「原発性胆汁性胆管炎」との病名変更を決議した2)。
「原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis)」という新病名に問題がないわけではない。しかし,「肝硬変」という病名は,多くのPBC患者にとって単に病状を反映していないというだけではなく,医療従事者が想像する以上に大きな心理的・社会的負担となってきた。この弊害を取り除き,患者との間により良いコミュニケーションを図るため,今後,医療従事者にはPBCの新しい病名を使用されるよう,お願いしたい。
【文献】
1) Beuers U, et al:Hepatology. 2015;62(5):1620-2.
2) 田中 篤, 他:肝臓. 2016;57(7):309-11.
【解説】
1)田中 篤,2)滝川 一 帝京大学内科 1)教授 2)主任教授