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医学部にとって真のステークホルダーは誰か? [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.87

伊藤 宏 (秋田大学大学院医学系研究科科長)

登録日: 2017-01-03

最終更新日: 2016-12-26

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最近、「ステークホルダー」という言葉をよく耳にします。辞書によればステークホルダーは日本語では「利害関係者」と訳され、企業においては、顧客や株主、従業員、取引先や金融機関などを含む、とあります。大学においては、学生や教職員、就職先企業、地域社会や行政などを指して使われるようです。秋田大学の中期計画にも「各研究科が目指すべき目標を達成しているかについて、ステークホルダーを委員に迎えた連携運営パネルにおいて検証を行う」などとした文章が盛り込まれています。

ステークホルダーという言葉の意味を調べたときに、私の頭に第一に浮かんだことは、ピーター・ドラッカーの著書『マネジメント』の中に出てくる「企業の目的は顧客の創造」という有名な言葉です。経営学にまったく疎い私の勝手な想像なので間違っている可能性も高いのですが、ステークホルダーという概念のルーツには、ドラッカーのいう「顧客」という概念があるのではないかと思ったからです。ドラッカーは「組織は顧客のニーズを満足させるためにある」と述べています。ベストセラーになった『もしドラ(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら)』の中でも、主人公の女子マネージャーが初めに考えたのは「顧客は誰か」という問いかけでした。

生産企業からみた「顧客」はもちろん、商品を買ってくれる人、お客様(消費者)そのものです。したがって企業にとっての最大のステークホルダーはもちろん「顧客」だと思います。「顧客第一」をスローガンに掲げる企業も多いでしょう。

それでは大学医学部にとっての「顧客」は誰でしょう。一部の方は「それは学生だ」と答えるかもしれません。でも、ちょっと待って下さい。大学医学部は学生のニーズを満足させるためにあるのでしょうか。それはまったく違うと私は思います。

大学医学部にとっての「顧客」は国民全体であり、国民のニーズを満足させられる医師や、医学者を育成することが大学医学部の使命だと私は思っています。特に国立大学では学生教育費の多くを国民からの税金に頼っているわけですから、特に学生を「顧客」と考えることには無理があります。もちろん「ステークホルダー」と「顧客」は違った概念であり、前者は包含する範囲が広いので、当然、学生はそれに含まれますが、学生は決して医学部にとっての「顧客」ではありません。

ここまで考えてきたとき、ふと頭をよぎったことは、我々大学医学部は顧客たる国民の真のニーズに応えることができる医師を育てているか、という疑問……。自信を持って「Yes」と言えないのが残念です。今年こそ、胸を張って「Yes」と言える年にしたいと思います。

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