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医療とマネジメント [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.93

猶本良夫 (川崎医科大学総合医療センター院長代理)

登録日: 2017-01-03

最終更新日: 2016-12-26

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医療に携わる私たちは、多忙な日々を過ごしています。これから改善されることを期待はしていますが、高齢化に伴う有病者の増加、人口減少に伴う働き手の減少、財政困難、医療制度改革等による医療機関間の競争激化などにより、医師をはじめ医療職の負担感は増すばかりの現状に危機感を持っています。また、高度化する医療の中でそれぞれの診療科、診療分野が細分化されることで、それら相互のコミュニケーションが阻害され、大きな事故や問題を引き起こす要因になっています。こういった課題を制御、解決するために必要な技術は、人と人との関係構築力とマネジメント力であると私は信じています。

ピーター・ドラッカーは組織のマネジメントに必要な要素は、1)目標の設定、2)組織すること、3)チームをつくること、4)評価すること、5)自らを含めて人材を育成することである、と述べています。組織マネジメントの役割は、いろいろな考えを持つ人たちを束ねて価値ある1つの目的に向かって進む集団にすることです。それには、組織も個人も「使命感」を持つことが大切です。ドラッカーはマネジメントの役割について、「第一に、自らの組織に特有の使命を果たす。第二に、仕事を通じて働く人たちを生かす。第三に、自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題に貢献する」と語っています。

私は、多くの先輩達と仕事をさせてもらいながら、マネジメント力は天性のものと思っていました。しかし今は、学習と良い経験によって身につく力だとわかりました。ドラッカーは、マネジメントに欠くことのできないたった1つの資質は、「真摯さ:integrity」であると指摘していますが、それも自らの使命を知り、行動化することで得ることができると思います。

最近、ある中堅医師が、勤務する病院で同僚や他のメディカルスタッフに対して暴言や傲慢な態度をとったために組織やチーム内でうまくいかなくなり、辞職せざるをえなくなった、という話を聞きました。それ以前も以後も幾度か注意や助言を得たようですが、その態度はまったく改まらないとのことでした。もともと、医師になりたての頃、直接指導を受けた医師が同じようにしているのを「かっこいい」と思ったことが、誤った生き方の出発点とのことでした。この例からも、組織やチームの一員として自らの役割を発揮することで初めて成果を出すことができるということを早くから継続的に学ぶ機会があれば、彼も本来の力が発揮できたのではないかと思いました。

企業では、スタッフは多くのマネジメント研修を受けてステップアップしていくことが一般的です。また、看護職の方たちには、看護協会などで段階的にマネジメント研修を受ける機会があります。一方、医師はマネジメント研修を受ける機会は乏しいと言わざるをえません。医学部のカリキュラムにもマネジメントに関する内容はほとんど含まれていません。

マネジメントを学ぶことは、生きたknow howを学ぶことで興味深いことが数多くあります。たとえば、様々なプロジェクトの成否も、計画のよしあしのみならず、プロジェクトに参加するメンバーの納得や、やる気に大きく左右されるという研究成果があります。「組織は人なり」でその「人」をどう動機づけ、動かしていくかです。われわれのチーム医療にも生かすことのできる知見です。

今後、医師を含めた医療職が困難で激しい環境の変化に立ち向かっていくためにも、マネジメント力の習得が求められています。

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