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医者と昆虫採集 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.109

弘世貴久 (東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野教授)

登録日: 2017-01-04

最終更新日: 2016-12-26

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当教室の責任者となってもうすぐ5年が経つ。いわゆる落下傘教授として他学より赴任した私であるが、多くの先輩先生方の御指導もあり、なんとか医局の体を成すようになってきたのではないかと思っている。ストレスがないといったらウソになる。そんな毎日の中でいかにそれを発散するか、リフレッシュしていくかは個人個人によって考えがあろう。私のストレス発散法は野山に行き、網を振るう昆虫採集である。

作家の故北 杜夫さん、解剖学者の養老 猛さんは何れもドクターで、大の昆虫採集好きとして有名である。実はこの趣味をやっていてドクターがかなり多いことに気づく。人の命を扱うこともあるドクターが虫とはいえ、殺生をして標本をつくる昆虫採集なんていかがなものか、と言われそうである。

子ども、特に男の子は皆、大なり小なりの程度で虫を追いかけることが多い。そんなとき、親や先生が「かわいそうだから虫は採らないで逃がしてあげなさい」と言ってはいけない。是非飼育して欲しい。うまく飼育できないなら親が手伝ってやろう。しかし、そうはいってもなかなかうまくいかない。きっと数日後には虫かごやケースに入れていた虫は死んでしまう。でも「生けるものには必ず死が訪れる」ということを学ぶ、またとないチャンスである。コンピュータの虫捕りゲームなんかしていたら、何度でも生き返らせることができてしまって「死」や「生」の意味がわからないまま大人になってしまう。などと言い訳をして昆虫採集をし、採った虫を標本にするのが私のストレス発散であるが、何より癒されるのは並べた標本を眺めているときである。一体一体の標本にはラベルがついており、採った場所、採った年月日に加えて採集者の名前が入る。

2人の子どもと行った採集には3人の名前が入る。そして、その標本を眺めると採ったときのうれしかった感動のシーンがよみがえる。ちょっとシングルモルトのロックを傾けると最高の時間である。

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