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認知症の地域ネットワークの要としての神経心理学 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.32

佐藤正之 (三重大学大学院医学系研究科認知症医療学講座准教授)

登録日: 2017-01-01

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認知症が大きな問題となっている。わが国では現在500万人の認知症患者がおり、2025年には少なくとも700万人、一説では1000万人を超えるという。一方、認知症に関連する専門医は2000人ほどである。単純計算すると現時点で、1人の専門医が2500人の認知症患者を診療することになる。非現実的な数字である。

認知症とは、認知機能が持続的に低下した状態のことをいう。認知機能には記憶、言語、行為、視空間認知、実行機能などがある。認知症患者の症候を正しく把握するためには、それらの認知機能に関する知識と経験が求められる。いわゆる神経心理学的技能である。決して多くはない認知症の専門医の中で、神経心理学的技能を有しているものはさらに少ない。

この事態に対応する道は3つある。まず、足りない技能を補っていくこと。いわゆる再教育である。これは根本的な解決策として避けては通れない。しかし時間がかかる。2つ目は、気にしないこと。認知機能について知らなくても認知症が診断できると思い込むことである。しかしそれは、末梢神経障害の診断で「よくわからないから」と感覚の診察なしに済ませるようなものである。3つ目は、専門医とかかりつけ医、患者・家族をつなぐシステムを地域で構築すること。最小の手間と費用で機能する医療・福祉ネットワークをつくることである。私たちが行っている「認知症出前ITスクリーニング」はそのモデルである。

失語症を「質問に答えない」からと認知症と診断し、前頭側頭型認知症を「長谷川式が28点だから正常」という。認知症でないにもかかわらず「ボケ扱い」された患者はプライドを傷付けられ、二度と病院に来ようとはしない。実行機能障害があるにもかかわらず「異常なし」とされた患者は、本人だけでなく周りの人までがさらに長期間、何が起こっているのかわからないまま苦労を背負うことになる。

誰もがエキスパートになる必要はないが、せめて目の前の患者が専門家による診断が必要なのか、その必要のない典型例なのか、すぐに専門医受診が必要なのか、しばらく経過観察でよいのかを、地域でのシステムとして判断できる態勢が求められる。「紙と鉛筆の学問」といわれる神経心理学は、今まさに時代の要請の最前線にある。

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