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超高齢化社会における漢方医学への期待 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.44

清水 寛 (医療法人東洋病院理事長、徳島大学医学部臨床教授)

登録日: 2017-01-02

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2015年の日本人の「平均寿命」は、女性は87.05歳、男性は80.79歳と、いずれも過去最高を更新した。日本の高齢者人口は、65歳以上が4人に1人、15歳未満の年少人口の2倍を初めて超えた。平均寿命とは別に、自立生活が可能な「健康寿命」は、2013年は男性71.19歳、女性は74.21歳であった。

一方、2015年度の総医療費は41.4兆円と過去最高を示し、1人当たりの医療費は32万7000円、75歳未満が22万円、75歳以上が94万8000円と、75歳未満の4.3倍に達した。
投薬状況を見ると、75歳以上の患者の約3割が10種類以上の多剤併用をしており、その副作用による病状悪化や新たな症状が見られることが報告されている。薬剤の種類や用量について、慎重な検討と注意が要求されている。

医療費を高騰させているもうひとつの原因に「調剤」の問題がある。ある種のがん免疫薬は、1年間で5万人に使用すれば、1兆7500億円、C型肝炎に使用する薬剤は、1錠6万~8万円と試算されている。

以上のような高齢者の多剤併用や高額薬剤の多用問題について、薬価制度の改善やインフラ整備による服薬情報の一元化と共有化が必要不可欠であろう。

国立がん研究センターは、2016年に新たにがんと診断される患者は101万200人、がんで死亡する人は37万4000人になると予測している。その増加の原因として高齢者の増加を挙げている。2025年には、国民の5人に1人が後期高齢者となり、医療費は74兆円に達すると予測されている。

今、日本ではiPS細胞の研究と実用化に研究者の目が集中している。この再生医療において大切なことは「元気なiPS細胞を体外から体内に入れても、病気で細胞が育つ体内環境がなければ治療効果は出ない」と専門家は警告している。このことは、あらゆる臨床家にとって貴重な警告であり、すべての疾患の治療の前に、受ける側の個々の状態の精密な把握の重要性を指摘している。この思考はまさに漢方医学の理論と治法そのものである。

2016年6月、第67回日本東洋医学会学術総会が四国で初めて開催され、2500人余りの参加を頂いた。参加者は西洋医学の全科にわたり、活発な研究発表、漢方の基礎理論と臨床研修などのほか盛会裡に終わった。前述のごとく、さらに超高齢化へと突進する日本において、健康寿命の伸延、病的老化の抑止、そして医療費の抑制を図るために、国家レベルの漢方医学研究機関を設置し、不老長寿国を目標に努力したいものである。

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