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子どもは必ず大人になる [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.16

賀藤 均 (国立成育医療研究センター病院長)

登録日: 2017-01-01

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「子どもは必ず大人になる」。当たり前のことである。自然の摂理であるし、人間社会で、特に強調すべきことでもない。と、大人は全員思っている。しかし、大人である年配者集団が意思決定をするときになると、「『大人になる前は子どもだった』ことを忘れているのではないか」と、最近、考えるようになった。特に、日本社会では。2012年の日本のGDPに占める教育機関への公的支出割合は3.5%で、OECD加盟国中最下位である(日経新聞2015年11月24日)。

日本の子どもの相対的貧困率は15.7%でOECD加盟34カ国中10番目に高く、子どもがいる現役世帯のうち、大人が1人の世帯の相対的貧困率は50.8%とOECD加盟国中最も高い(内閣府平成26年版子ども・若者白書)。英国では、サッチャー政権の終わりには子どもの貧困率が26%であったが、その後の政権を担ったブレア首相はTony Blair’s war on povertyと称される一連の政策を断行し、その成果として2010年に11%まで低下している(厚労省第2回子どもの医療制度の在り方等に関する検討会資料)。それはまさに「war」という言葉で表現されるほどであった。日本の保育、家族手当などの公的な家族関係社会支出の対GDP比は低く、フランスやスウェーデンなどに比べて1/3程度の規模である(厚労省白書)。15歳未満の平成25年度入院・入院外医療費は65歳以上のそれの約1/9である(平成25年度厚労省保険局資料)。

医療費に同年度の年金、社会保障費、その他の支出を計算すると、20歳未満への支出は65歳以上の1/18となる(厚労省第2回子どもの医療制度の在り方等に関する検討会資料)。この数字は65歳以上に支出している公的経費の5%を20歳未満に振り替えれば、20歳未満への支出総額は約2倍になる計算である、云々。「自分たちが子どもの時は、大切にされてこなかった」という印象を国が国民に植えつけているようなものである。
このような国の元で成長した「子どもだった大人」に、「日本のため」などと言っても、馬耳東風だろう。

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