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(3)手術可能乳癌における診療アルゴリズム [特集:個別化する乳癌への対応と工夫]

No.4726 (2014年11月22日発行) P.26

北川 大 (がん研究会有明病院乳腺センター乳腺外科副医長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-16

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  • 手術療法は根治性を損なわないことと同時に,整容性を重視した術式に変遷してきている

    薬物療法はサブタイプ分類に基づいた治療方針がとられている

    高リスク症例に対する乳房切除後の胸壁照射は局所制御と全生存率改善に寄与する

    術後フォローアップでは遠隔転移のルーチン検索は推奨されていない

    1. 手術:根治性と整容性の追求

    乳癌の手術は,乳房の手術と腋窩リンパ節の手術の2つの要素から成り立っている。乳房の手術には乳房切除術(全摘術)と乳房部分切除術(温存術)があり,わが国では1980年代後半から温存術が徐々に普及し,2002年頃から温存術が全摘術と同等となり,その後,温存術が最も多く選択される術式となった1)。この背景には,正確な術前画像検査による広がり診断の進歩,詳細な検索を可能にした乳腺病理医の理解と努力,有害事象を最小限にすることを実現させた放射線照射技術の進歩がある。
    しかし,最近では選択される術式の割合に変化がみられる状況になりつつある。当院における手術術式の変遷を図1に示す。全摘術が温存術を再び上回る状況となってきたが,その一因と考えられるのは乳房再建術の普及である。2014年から乳房再建術が保険収載され,今まで自費診療となっていた手術が患者にとってより身近な方法となったことが大きく影響した可能性がある。今後,根治性を損なわず,かつ患者のニーズに最もマッチした選択肢を提示できるようにしていく必要がある。
    腋窩リンパ節については,わが国では2000年以前では浸潤癌に画一的に郭清を行っていたが,センチネルリンパ節(sentinel lymph node:SLN)の概念が提唱された後は,臨床的リンパ節転移陰性例に対するSLN生検が急速に普及してきた。これにより郭清が不要な症例に対して郭清を省略し,郭清に伴う有害事象の頻度を減らせるようになった。
    このようにSLN生検が定着すると,今度はSLNの転移状況に応じて郭清をするか否かが議論されるようになった。その議論のきっかけとなったのはACOSOG Z0011試験2)である。本臨床試験では,温存術が行われ,残存乳房照射が予定されている症例を対象として,非郭清と郭清の比較が行われた。リンパ節転移個数が2個までであれば,郭清の有無にかかわらず,局所制御率,予後に差がないことが示された。
    この結果にIBCSG 23-01試験3)の結果を加えて,ASCO(American Society of Clinic­al Oncology)のガイドラインでは,残存乳房照射を予定している温存術施行症例で1~2個の転移であれば,多くの場合,郭清をすべきではないと明記された4)。今後も様々な臨床試験が検討され,腋窩リンパ節に対するマネジメントは進歩するものと思われる。

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