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(2)抗うつ薬【第1章 向精神薬の今】[特集:向精神薬 総まとめ]

No.4709 (2014年07月26日発行) P.22

大坪天平 (JCHO東京新宿メディカルセンター(旧東京厚生年金病院)精神科・心療内科主任部長)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-27

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  • 抗うつ薬を投与する前に,本当に抗うつ薬の適応であることを確認する。

    抗うつ薬の種類とそれぞれの特徴を把握する。

    抗うつ薬の種類による副作用の違いを把握する。

    1. 抗うつ薬のトレンド

    1 抗うつ薬「今昔」─ 誕生から現在まで

    1951年にモノアミンオキシダーゼ阻害薬(monoamine oxidase inhibitor:MAO-I)のイプロニアジドが,57年に三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressant:TCA)のイミプラミンが導入されてから,うつ病の治療は劇的に変化した。MAO-Iの重篤な副作用により,わが国ではうつ病治療薬として使われなくなったが,TCAはイミプラミンに続き数々の薬剤が開発され,うつ病治療の中心的存在となった。TCAを用いたうつ病臨床研究が幅広く行われ,抑うつ症状の寛解には十分な用量で十分な期間の治療が必要なことや,症状改善後も継続治療が必要なことなど,うつ病臨床の知見が集積されることとなった。同時に,抗コリン作用による口渇,便秘,尿閉,認知機能障害,緑内障の増悪,抗ヒスタミン作用による鎮静,α1阻害作用による起立性低血圧,キニジン様作用による不整脈などの有害事象が問題視されるようになった1)2)
    抗うつ薬は,維持治療を含めると長期間にわたって服用しなければならないため,服薬遵守率を維持するために忍容性の向上が余儀なくされた。その後,副作用が改良されたアモキサピンをはじめとする第2世代TCAから,四環系抗うつ薬,トラゾドン,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI),セロトニン(5-hydroxytryptamine:5-HT)・ノルアドレナリン(noradreraline:NA)再取り込み阻害薬(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor:SNRI),NA作動性・特異的5-HT作動性抗うつ薬(noradrenergic and specific serotonergic antidepressant:NaSSA)と,次々に抗うつ薬が開発され,2011年8月のエスシタロプラムの発売により,わが国では現在20種類の抗うつ薬が使用可能となっている(表1)1)2)
    近年では,多種のガイドラインやアルゴリズムの推奨により,うつ病治療の第一選択薬として,SSRIやSNRI,NaSSAなどが多く使用されるようになった。

    2 なぜ効くのか?─ 作用機序概説

    現在,使用可能な抗うつ薬のすべては,モノアミン仮説に基づいている。抗うつ薬は脳内神経伝達物質のモノアミンである5-HT,NA,ドパミン(DA)の再取り込みを阻害し,シナプス間隙におけるこれらの伝達物質の濃度を増加させることにより神経伝達を強化し,抗うつ効果を発揮すると考えられている1)2)
    抗うつ薬が抗うつ効果を発揮するには,2〜4週間を要する。これは,シナプス間隙におけるモノアミンの再取り込み阻害作用が数時間~数日で発揮されるのに比べ,長い時間を要していることとなる。このため,神経伝達物質の強化のみならず,その後の受容体感受性の変化,抗うつ薬によって誘導されるセカンドメッセンジャー系の変化〔特に,神経新生や脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の発現など〕が抗うつ作用の本質である可能性が指摘されている1)2)

    3 新薬開発 ─ 今後の展望

    うつ病治療の現状から,①より高い反応率と寛解率,②最小限の有害事象と高い安全性,③即効性,を有する新たな抗うつ薬が求められている。
    モノアミン仮説に基づいた抗うつ薬としては,5-HT再取り込み阻害作用に加え,5HT1A受容体刺激作用,5-HT1B受容体部分刺激作用,5-HT3,5-HT1D,5-HT7受容体拮抗作用を持つvortioxetineが2013年9月,米国FDAにより承認され,わが国でも臨床試験が進行している。このほか,5-HT,NA,DAの三者ともに再取り込みを阻害するtriple reuptake inhibitor(TRI)が開発されている3)
    モノアミン仮説以外の抗うつ薬も開発中である。たとえば,agomelatineはメラトニンMT1/MT2受容体刺激作用と5-HT2B/2C受容体阻害作用を有し,抑制性ニューロンを抑制して抗うつ効果を示すと考えられ,欧州を中心に使用されている3)
    現在有望なのは,グルタミン酸神経系の抗うつ薬である。特に,非競合的NMDA(N-methyl-D-aspartic acid)受容体拮抗薬のケタミンが治療抵抗性うつ病に効果的であったとの報告から,同様の作用を持ち,より安全なmGluR5拮抗薬の開発が進んでいる。NMDA受容体と反対の作用を持つAMPA(α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4 isoxazolepropionic acid)受容体作動薬の開発も進んでいる3)
    ほかにも,うつ病で亢進している視床下部-下垂体-副腎皮質系を抑制するCRH受容体拮抗薬,非ステロイド性抗炎症薬であるCOX-2阻害薬,ω-3脂肪酸系など,モノアミン仮説を超えた抗うつ薬が開発中である3)

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