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さらば、あこがれの北新地[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(162)]

No.4868 (2017年08月12日発行) P.71

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2017-08-12

最終更新日: 2017-08-07

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  • 北新地といえば、大阪きっての飲食店街である。いまでは一般的な店もずいぶん増えたが、かつては『白い巨塔』に出てくるような高級店ばかりだった。あまりご縁はないけれど、蘭が切り花で飾ってあり、きれいなおねえさんがはべってくれて、座っただけで何万円も取られるようなお店もある。

    20年ほど前に移転するまで、阪大病院は北新地から徒歩約10分という、信じられないほど素晴らしい場所にあった。おねえさん方の人件費にはほとんど貢献していないけれど、研修医時代以来、彼の地でどれだけ飲食費を落としてきたかわからない。

    Nという店は、檜の一枚板のカウンターに、手元と足下には磨き込まれた真鍮の棒がしつらえてある渋いバーだった。伝説的なマスターは格好よく実に粋な人で、飲み方や遊び方をいろいろと教えてもらった。

    カウンターに肘をついたりするのはもってのほか。背筋を伸ばして、真鍮のバーに前腕を軽く乗せて飲まなければならなかった。マスターは亡くなり、お店もカウンターごと消え去ってしまった。しかし、いまだに、どんなバーへ行っても、背筋を伸ばさないと叱られそうな気がしてしまう。

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