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ライノウイルスの分類と疾患への関与

No.4689 (2014年03月08日発行) P.53

清水博之 (国立感染症研究所ウイルス第2部第2室室長)

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-09-06

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【Q】

国立感染症研究所の「病原微生物検出情報」を見ると,手足口病(hand,foot and mouth disease;HFMD)症例からライノウイルスが検出された例がある。ライノウイルスは現在,エンテロウイルス属に含められているようであるが,手足口病の病原体として認められているのか。(和歌山県 A)

【A】

ライノウイルスは,疾患への関与の有無にかかわらず,健常人や様々な症例の臨床検体から検出される可能性があり,一般的には手足口病の主要な原因ウイルスとは考えられていない

ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属するライノウイルスは,ヒト呼吸器感染症の主要な原因ウイルスとしてよく知られている。ライノウイルスは,エンテロウイルス同様,不顕性感染により伝播しうるので,臨床検体からのライノウイルス検出の診断的価値については慎重に判断する必要がある。

手足口病流行と主要な原因ウイルス

手足口病は,四肢末端および口腔粘膜に現れる水疱疹および発熱を特徴とした,乳幼児における一般的なエンテロウイルス感染症のひとつで,中枢神経合併症により入院が必要とされる場合もあるが,多くの場合,予後は良好である。日本における手足口病の主要な原因ウイルスはコクサッキーウイルスA16(coxsackie­virus A16;CVA16)およびエンテロウイルス71(enterovirus 71;EV71)であり,CVA16あるいはEV71による比較的規模の大きな手足口病流行が数年おきに発生している。

2011年および2013年には,過去最大規模の手足口病流行が発生し,主要な原因ウイルスはコクサッキーウイルスA6(coxsackie­virus A6;CVA6)であった1)。CVA6は,わが国では従来,口腔粘膜の小水疱性発疹を特徴とするヘルパンギーナの主要な原因ウイルスのひとつであったが,CVA6による“非典型手足口病”流行が,現在,世界的な広がりを見せている2)。このように,手足口病の主要な原因ウイルスは,EV71,CVA16およびCVA6とされている。

ライノウイルスの疾患への関与

エンテロウイルスやライノウイルスは,多くの血清型を有し,多数の血清型のウイルスが顕性あるいは不顕性に日常的に伝播している。そのため,ライノウイルスは,特定の疾患発症への関与の有無にかかわらず,健常人や様々な症例に由来する臨床検体からも検出される3)。病原微生物検出情報によると,2013年6〜11月にかけて,手足口病症例から最も高頻度に検出されているのはCVA6(766件)で,その次にはEV71(228件)が高頻度に検出されている4)。CVA6およびEV71ほど頻度は高くないが,ライノウイルスも手足口病症例から検出されている(81例)。しかし,この時期,ライノウイルスは,手足口病以外の様々な症例(ヘルパンギーナ,咽頭結膜熱,感染性胃腸炎など)からも比較的多く検出されており,ライノウイルス感染と疾患発症との関連について慎重に評価する必要がある。ほかの原因により顕性感染を起こした症例に,ライノウイルスが不顕性あるいは軽度の呼吸器感染症の原因ウイルスとして重複感染していた可能性も高い。

ライノウイルス・エンテロウイルスの分類と病原性

近年,遺伝子解析によるウイルス同定が一般化し,今まで報告されていなかった多くのピコルナウイルスが新たに同定された。ウイルス遺伝子情報の集積に伴い,分子系統解析を基盤としたウイルス分類体系が整備されつつある5)。国際ウイルス分類委員会による分類体系によると,ピコルナウイルスは17属に分類され,その中で,エンテロウイルス属は12の独立した種(species)を含む(図1)5)6)。このうち,ヒトエンテロウイルスは4つの種であるEntero­virus A,B,CおよびDに分類され,ライノウイルスは3つの種であるRhino­virus A,BおよびCに分類される6)。手足口病の原因ウイルスであるEV71,CVA16およびCVA6は,すべてEnterovirus Aに含まれる。近年新たに報告されたRhinovirus Cは,従来型ライノウイルス(Rhinovirus AおよびB)同様,呼吸器感染症の原因ウイルスとして広範に伝播していることが明らかとなってきた。

ライノウイルスは,ごくありきたりの呼吸器感染ウイルスとして常在しているが,ライノウイルス感染が,宿主の免疫・炎症反応を介して喘息発症に関与する可能性について,最近,注目が集まっている7)

【文献】

1) 清水博之:医事新報. 2013;4673:56-7.
2) Feder HM Jr, et al:Lancet Infect Dis. 2014;14 (1):83-6.
3) Peltola V, et al:J Infect Dis. 2008;197(3): 382-9.
4) 国立感染症研究所病原微生物検出情報, 他:IASR. 2013;34(12):34.
5) King AMQ, et al:Virus Taxonomy IX. エルゼビア, 2011, p855-80.
6) ICTV Picornaviridae Study Group
[http://www.picornastudygroup.com]
7) Foxman EF, et al:Nat Rev Microbiol. 2011;9 (4):254-64.

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