小生の専門はリンパ浮腫である。リンパ循環は大循環に比し、遥かにマイナーな分野である。下肢浮腫をきたす疾患としても、まず大循環としての静脈を考えるのが一般的であり、静脈血栓症はエコノミークラス症候群としても広く知られている。
しかし、最近はリンパも知られるようになり、巷でもなにやら魔訶不思議な存在として人気があり、リンパを流せば何でも治るような風潮すらある。医療面では2008年にはリンパ浮腫に対する弾性着衣、2016年にはリンパ浮腫の複合的治療が保険収載となり、徐々に知られる存在になってきたのは喜ばしいことである。一方でマイナーなはずのリンパが過大評価されてしまう現状が生まれている一面もあり、違和感を感じる。
以下にその一例を挙げる。68歳女性、157 cm、75kg、特に治療中の疾患はない。ある朝起床時に左下腿に疼痛、発赤を伴う腫脹を認めたため近医を受診し、大学病院を紹介された。RIリンパ管造影も施行しリンパ浮腫および蜂窩織炎と診断されたため、近医に戻り約1週間、抗生剤点滴投与を受けた。しかし下肢腫脹および皮膚の暗紫色は消失せず、約1カ月後には大腿部にも疼痛を認め、主治医である近医から当院へ紹介されてきた。
残り569文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する