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(2)医師がセルフ・ネグレクトに気づくとき─日常診療(外来・在宅)の場で[特集:高齢者虐待に気づいたとき,医師としてどう行動するか]

No.4874 (2017年09月23日発行) P.31

岸 恵美子 (東邦大学看護学部公衆衛生看護学研究室教授)

登録日: 2017-09-20

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  • セルフ・ネグレクトとは,生活を維持するために必要な能力・意欲が低下して,健康・安全が脅かされる状態に陥ることを言う

    セルフ・ネグレクトでは,なかなか自分からSOSを発信せず,また支援の手を差し伸べても「拒否する」ため,地域包括支援センターなどの専門職では対応が困難である

    自分の置かれている状況が理解できない,あるいは「どうでもいい」という思いから支援を「拒否する」ことがあり,「支援を求める力が欠如」していることも少なくない

    いわゆる「ゴミ屋敷」はセルフ・ネグレクトの一類型と考えられ,家屋が不衛生になることにより,害虫・害獣の被害や,慢性疾患の悪化・重症化につながる危険がある

    現在セルフ・ネグレクトに対応できる直接的な法制度がなく,高齢者虐待防止法の虐待にも定義されていないことから,現状を把握するためにも法制度の整備が課題である

    1. セルフ・ネグレクトとは

    本稿では,セルフ・ネグレクトの定義・概念,実態,リスク要因,介入・支援方法,今後の課題について述べる。訪問診療あるいは病院やクリニックなどの外来診療の場で,医師にセルフ・ネグレクトやそのリスクの高い人に気づいて頂き,早期発見・早期介入の一助として頂ければ幸いである。

    1 セルフ・ネグレクトの定義

    ネグレクトは「他者(親,ケア提供者など)による世話の放棄・放任」だが,セルフ・ネグレクトは「自己放任」,つまり「自分自身による世話の放棄・放任」を指す。セルフ・ネグレクトは,いわゆる「ゴミ屋敷」や多数の動物の放し飼いによる極端な家屋の不衛生,本人の著しく不潔な状態,医療やサービスの繰り返しの拒否などにより,健康に悪影響を及ぼすような状態に陥ることを言う。食事や水分を摂取することなどを怠れば生命に関わり,「孤立死」につながることもある。

    現在,わが国においてセルフ・ネグレクトに関する法的な定義,また,正式に研究者や援助専門職の中で共通認識化されたセルフ・ネグレクトの定義は存在していない。しかし,全米高齢者虐待問題研究所(National Center for Elder Abuse:NCEA)の「自分自身の健康や安全を脅かすことになる,自分自身に対する不適切なまたは怠慢の行為」という定義1)を平易にし,津村らは「高齢者が通常一人の人として,生活において当然行うべき行為を行わない,あるいは行う能力がないことから,自己の心身の安全や健康が脅かされる状態に陥ること」と定義している2)

    「東京都高齢者虐待対応マニュアル」3)では,「1人暮らしなどの高齢者で,認知症やうつなどのために生活能力・意欲が低下し,極端に不衛生な環境で生活している,必要な栄養摂取ができていない等,客観的にみると本人の人権が侵害されている事例」を「いわゆるセルフ・ネグレクト(自己放任)」と定義した上で,高齢者虐待に準じて対応するべきとしている。認知症や精神疾患等により認知・判断力が低下してセルフ・ネグレクトの状態に陥っている場合でも,認知・判断力の低下はなく,本人が自分の意思で行っている場合であっても,生命や健康に関わる状態であれば,他者が介入して支援する必要がある。

    残り5,227文字あります

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