性同一性障害(gender identity disorder:GID)の社会的な認知度は,いまだ十分とは言えない状況です。GIDの患者は,様々な内科的・外科的治療が必要ですが,わが国ではGID治療の豊富な知識・経験を持つ専門医が少ないためか,十分な治療を受けられない患者も少なくありません。海外で安価な手術を受けた患者が,帰国後に合併症を発症して治療に難渋する,といった問題も報告されています。
わが国でも数少ないGID手術が可能な施設である沖縄県立中部病院・今泉 督先生に,GID患者の手術の現状についてご教示頂きたいと思います。
【質問者】
門田英輝 九州大学病院形成外科准教授
GIDの手術は,内・外性器に対する性別適合手術(sex reassignment surgery:SRS)とそれ以外の非SRSがあります1)。前者は,女性で男性自認(female to male transsexual:FTM)に対する子宮卵巣摘出術,ミニペニス形成術や陰茎形成術と,男性で女性自認(male to female transsexual:MTF)に対する精巣摘出術,陰茎切除術と造腟術および外陰部形成術です。後者は,FTMに対する乳房切除術,MTFに対する顔面骨切り術,甲状軟骨形成術,声の女性化術,豊胸術です。
陰茎形成術のゴールドスタンダードは,遊離橈側前腕皮弁による形成術ですが,太い陰茎となるものの,皮弁採取部の醜形のため,最近では有茎前外側大腿皮弁を望む当事者が増えています。いずれも陰核背神経を皮弁知覚神経に縫合することによって,形成された陰茎で性的興奮を得られる症例があります2)3)。また,造腟術では,潤滑した深い腟腔が得られる結腸法が繁用され,性機能は良好なようです4)5)。
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