B型肝炎ウイルス(HBV)は,ウイルス粒子のエンベロープに存在するpreS1ドメインを介して肝細胞に接着し侵入するが,エントリーに関わる肝細胞側の因子は長らく不明であった。2012年に胆汁酸トランスポーターであるNTCP(sodium taurocholate cotransporting polypeptide)がHBVの機能性レセプターとして同定された1)。これまでHBVが感染する継代培養が可能な肝癌細胞株は存在せず,マウスなどの小動物にもHBVは感染しないため,実験モデルが少ないことがHBV研究の障壁となっていた。しかし,肝癌細胞株にNTCPを強制的に発現させるとHBV感染が成立することから2),NTCP強制発現肝癌細胞株は現在,HBVに関連する様々な研究に用いられている。
B型肝炎の治療については現行のインターフェロンや核酸アナログ製剤ではウイルスの排除という最終的な目標を達成することができず,新たな治療標的が必要となる。筆者らは,マウス肝細胞をヒト肝細胞に置換したヒト肝細胞キメラマウスを用いて,NTCPがHBV感染の新たな治療標的になりうることを明らかにした3)。今後はNTCPを標的としたウイルス侵入阻害薬の開発が期待される。一方,NTCPを強制発現してもHBVが感染しない細胞株も多数存在し,NTCPはHBVの機能性レセプターのひとつにすぎない可能性が示唆されている。そのため,HBVのエントリー機構についてさらなる解明が望まれる。
【文献】
1) Yan H, et al:Elife. 2012;1:e00049.
2) Iwamoto M, et al:Biochem Biophys Res Commun. 2014;443(3):808-13.
3) Nakabori T, et al:Sci Rep. 2016;6:27782.
【解説】
中堀 輔*1,疋田隼人*2,竹原徹郎*3 *1大阪大学消化器内科 *2同学内講師 *3同教授