2016年の統計によると、日本の結核患者数は1万7625人であり、罹患率は人口10万対13.9であった。欧米のほとんどの先進国は罹患率10以下の低まん延状態になっているのに対し、いまだ日本は中まん延国である。米国の罹患率が13.9であったのは1977年であるので、40年遅れているとも言える。なぜ日本はこのような状態にあるのか?
大きな理由は、戦後の出発点における違いである。1953年の日本の罹患率は583と著しい高まん延状態であったのに対して、米国は53と11倍もの違いがあった。2016年の米国の3.0に対して、日本の13.9は4.6倍、63年間で差は半分以下になった。結核の制圧には長い時間を必要とするのである。
この間に、日本では1965年からの13年間、年率10%以上の罹患率減少を達成したが、これはWHOが推進しているEnd TB Strategyにおける2015年から25年の目標減少率に相当する。
当時の日本は、1953年に科学的方法で実施された有病率調査の結果を踏まえて、定期健康診断の拡大、結核病床の確保、保健所による患者管理の強化、小児を対象とした予防内服の実施、医療費の公費負担制度と結核診査会の連動による民間医療機関を巻き込んだ届出の徹底と適正医療の推進、高いBCG接種率の維持など、あらゆる対策が実施された。これらは結核予防法に基づいて、国・地方自治体・民間医療機関・一般企業等が協力しながら強力に実施された。また、国民皆健康保険制度、傷病手当金制度による休業所得補塡、生活保護制度などの社会基盤の整備が医療へのアクセスを容易にし、結核婦人団体による普及啓発活動が早期診断や治療完遂を促した。さらに、経済発展による栄養状態の改善や生活水準の向上が結核の減少を支えた。
2018年秋には、元首級が参加する国連ハイレベル会議で結核が取り上げられる。これまで結核対策を進展させた先達の英知と情熱に敬意と感謝を捧げながら、日本の経験を世界の人々のために役立てることが期待される。