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細胞傷害性T細胞によるがんの革新的治療[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.49

今井浩三 (東京大学医科学研究所前病院長・札幌医科大学元学長)

登録日: 2018-01-03

最終更新日: 2017-12-21

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「ミクロの決死圏」というアメリカ映画を観たのは約50年前で、医学部の学生の頃だ。脳出血で倒れた科学者を助けるために5人が体をミクロ化して体内に入り3600秒以内に出なければ命を失う、というサスペンス風の映画だ。血管内で出くわすのが、赤血球や白血球で、後者は小さくなったヒトを絡め捕ってしまう。SF映画不朽の名作で、アカデミー美術賞などを獲得した。

さて、最近がんの治療に、白血球(リンパ球)である細胞傷害性T細胞(CTL)が重要な働きをしていることが判明してきた。CTLはT細胞リセプターを使って、がん細胞などの異物を殺す働きがある。CTLに発現するPD-1、CTLA-4分子がCTLを抑制する働きがあるので、この分子に対する抗体を点滴として投与すると、その抑制が解除され、CTLが本来の機能を発揮して、異物であるがん細胞を消滅させる。肺癌、腎癌などに期待以上の良い効果を示しており、従来の化学療法に比較すると副作用も少なく、画期的な治療法であると言える。

私の研究面での恩師の菊地浩吉先生は、がん細胞とCTLの戦いを顕微鏡で撮影して我々に見せてくださったことがある。現在これが抗体薬投与によってがん患者の体内で起こり、がんが消滅する現実を見ると、若い頃に夢見たがんの免疫学的方法による治療の期待が確実に結実していることに、(自分が役割を果たせなかったほろ苦さも混じるが)研究の醍醐味と大きな喜びを感じる。

さらに最近、CAR-T細胞治療という、がん細胞の表面にある抗原に対する抗体と、T細胞リセプターを遺伝子操作で結合して作製したCTLを体内に戻す細胞治療(ペンシルベニア大学とノバルティス社)がほぼ確立され、米国FDAから承認されようとしている。

「ミクロの決死圏」から50年、ヒトをミクロ化する技術はまだないが、がん病巣を障害するよう緻密に設計された自分のCTLを外から投与して、命の危機から脱することができる時代を迎えた。この治療は、副作用などの有害事象を含めて改良の余地はあるが、主として小児や若年者の急性リンパ性白血病の約7割に効果を示しており、他の固形がんへの波及も期待される。

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