平成29(2017)年4月27〜29日の3日間、パシフィコ横浜にて、第117回日本外科学会定期学術集会を開催させて頂いた。
本定期学術集会は、「医療安全そして考える外科学」というテーマで開催させて頂き、1万5000名を超える参加者、3776題もの多くの演題を頂いた。医療安全に関する企画を3日間を通して開催させて頂き、また、考える外科学セッションをはじめ、若手外科医の活気ある発表も非常に多く頂いた。本学術集会での講演や討論が、今後の日本の外科医療、医療安全を考えていく端緒となれば幸いである。
ここで、会頭講演でも述べたことのごく一部であるが、その一端を書いてみたい。
外科学の最近の発展は目覚ましいものがあることは衆目の一致するところである。外科治療においては、鏡視下手術に代表される、いわゆる「低侵襲手術」の進歩は患者のQOLに大きく寄与している。しかしながら、「外科治療」というものは、いかに「低侵襲」であるとしても、何らかの、幾許かの負担を生体に齎すこともまた事実である。そして「外科学」を通した「医学」の発展には、その多少を問わず外科による「侵襲」や「臓器切除」によって、その「欠損」から浮かび上がってくる「真実」から齎された数々の輝かしい研究成果が大きく寄与していることも真実である。
外科医として初のノーベル賞受賞者のEmil Theodor Kocherは多くの全摘術も含む甲状腺手術を施行し、術後患者の丁寧な観察を行った。そして、その受賞理由は「甲状腺の生理学・病理学および外科学に関する研究」(傍点、筆者)であった。また、胃全摘後の病態のひとつである、いわゆる以前の「無胃性貧血」「悪性貧血」から、胃の造血能への何らかの関与が示唆され、その後の「内因子」や「ビタミンB12」の存在の発見へとつながってきた。
このように、私達外科医は患者QOLを重視した目前の疾患の治療を一義的目的としているが、一方で、手術によって齎される臓器の欠損や損傷にも謙虚に目を向けることも、もうひとつの責務と考える。
太陽の光が陰った後の夜空に満天の星の存在がわかるように……。